書名 | 行基 |
著者 | 井上 薫 |
出版社・出版年 | 吉川弘文館・1959年 |
内容・目次 | はしがき 第1:家系と氏族的環境 1.高志氏と蜂田氏 2.書氏の政治的地位と文化 第2:民間伝道と池溝開発 1.出家と伝道 2.池溝開発とその技術 第3:平城京造営と布施屋設置 1.運脚夫・役民と布施屋 2.高石の大工村 第4:弾圧とその後 1.僧尼令 2.天平期政治の推移 第5:恭仁京の造営 1.国分寺の建立 2.沢田川の架橋 第6:紫香楽の大仏造営 1.勧進 2.大僧正 第7:東大寺の建立 1.大仏鋳造 2.菅原寺での臨終 第8:四十九院と布施屋 1.大野寺土塔の造営 2.施院と布施屋 3.大僧正舎利瓶の出現 追記:大野寺土塔について |
解説 | だいぶ古い本であるが僧行基について体系的に史料をあげて考察した、一般にも手に いれやすい書としては本書が唯一のものではないか。 行基の生まれや氏族的背景を踏まえつつ、彼が活動した時代の様相と照らし合わせな がら行基の足跡を追い、その意味を考える記述の仕方は堅実でかつ、事実をして語らせ ると言う性格を持ち、多くの示唆を与えてくれる。 行基の「教団」の発展の基盤は進行しつつある民間の富農層による開墾の進行とこの 層の社会的力の上昇に依拠しており、いまだ律令制国家によりその存在を認知されてい ないこの層の不満を背景としているという著者の指摘は示唆に富む。また墾田永年私財 法の発布は勧進による大仏建立とセットであり、開墾をし寄進をすることで富農層が律令 国家から位階を授けられるシステムであることから、大仏建立と墾田永年私財法は、力を つけつつある富農層を律令国家の側に包含しようという措置であり、この層の欲求にみあ ったもので、行基はこの橋渡しをしたという著者の指摘も興味深い。 もしかしたら行基の登場は古代社会の変質・崩壊と中世の幕開けの予兆であったやもし れず、大仏建立の意味を再考する必要すらあるかもしれない。また行基の遺蹟を継ぐとい う形で後の鎌倉新仏教の始祖たちの多くが活動している事も同様のことを示唆している。 |
値段 | 1803円 |