書名 | 平家物語―史と説話― |
著者名 | 五味文彦 |
出版社・出版年 | 平凡社(選書)・1987年 |
内容・目次 | まえがき T 平家物語 第1章 アプローチ 説話の場、語りの場 作者の像 (一)蔵人大夫 (二)下野守 (三)八条院院司 (四)行家入道 おわりに 第2章 歴史的構図 以仁王の乱―二つの皇統 (一)令旨 (二)以仁王 (三)流れ図 文覚の位置―朝家と朝敵 (一)流れ図 (二)文覚の実像 (三)京の文覚 おわりに 第3章 記録と史書のはざま (一)「百練抄」との相関関係 (二)七人の弁・蔵人 (三)藤原行隆の日記 (四)治承三年以前の日記 おわりに 補論―「百練抄」と「古今著聞集」 U史と説話 第1章 信西政権の構造 はじめに (一)政権構築 (二)大内造営 (三)京中整備 (四)権力失墜 おわりに 付:紙背の信範、晩年の信範 第2章 説話の風景 (一)日宋貿易を探る (二)水軍のスケッチ (三)一同訴訟を追う むすび 第3章 「古今著聞集」と橘成季 はじめに (一)芸能の世界 (二)主家の世界 (三)一門の世界 おわりに あとがき |
解説 | 本書で作者はまず平家物語の作者を推測する。徒然草の記述に従い藤原行長を作者と仮定し、その上で彼を巡る人間関係の復元をする。そして明らかにしたことは、当時の天台座主慈円と彼が設立した大懺法院が平家物語成立の環境であり、大懺法院が治承の兵乱 で亡くなった人々、とりわけ平家の人々の怨霊を鎮める目的で作られた事から、平家物語も平家の怨霊を鎮めるために作られたものと結論付ける。 そして次の論考は平家物語の物語の構図を考察し、それが二つの皇統の分裂と対立という構図で描かれていることを明らかにしており、この朝家の対立と分裂の中で一方の皇統が平家をその守護勢力としてつかい、もう一方の皇統が源氏をその守護勢力として使ったという構図になっていることを明らかにしている。 しかしこの本では以上の二つの推理を複合的に結びつけてさらに深く平家物語成立の事情とその目的を追求することはしていない。この点で本書は平家物語成立の謎の入り口に立ってはいるがその深奥にはいたっていない。欠けている視点は平家物語が成立した鎌倉時代初期の政治史が、幕府との関係をめぐる天皇家・貴族の分裂との視点である。この視点が欠けているために平家物語の表面的な解釈に終わっている事が本書の欠点である。 |
値段 | 2200円 |