<夢の浮世>2時間目いつもニコニコ現金払い
「何? いつもニコニコ現金払いって?」 うん。商売のやり方でね、現金と引き換えでなければ物を売らないというやりかただ。「そんなの当たり前
じゃあないか。他のやりかたがあるの?」 いい質問だ。掛売りとかつけとかいって、その時はお金をもらわないであとでまとめて支払ってもらうやり
かたがあるんだ。「ローンみたいなもの?」 ちょっと違うけど似たようなのもかな?。「じゃあ、いつまとめて払うの?」 12月の末だよ。大晦日まで
にはらうんだ。「はらわなかったらどうなるの?」 だから12月になるとお店の人がお客の家をまわって催促するんだ。そして払ってもらえそうもない
ところには『取り立てや』っていう怖いお兄さんをつれていくんだ。「わあ、やくざやさんだ!!」 うん。そういうこと。だから12月はたくさんのお店の人
がお金の取立てに走り回っているし、支払う方は支払うお金を借りるために走り回っているというわけ。「だから師走っていうの?」 そういうこと。
今日はこの『いつもニコニコ現金払い』という商売をはじめてやった人のことを勉強してみよう(資料@を配る)
<夢の浮世>資料@ 都市の豪商 江戸駿河町三井八郎右衛門高利というのは日本一の商人という。彼の先祖は寛永(1624〜1647)のころ、伊勢松坂より江戸へ奉公に出て、少しの元手金をこしらえて在所(松坂)へ帰り、仲間一人と組んで木綿を一駄ずつ交代で江戸に持ち出て商いをしたという。それがだんだん大きくなって日本一の大豪福となり、大店3ヶ所を持ち、1000余人の手代を使い、1日に金2000両の商いがあれば祝いをするという。 2000両の金は米5000俵の値である。5000俵の米は5000人の百姓が1か年苦しんで納める量である。5000人が1か年苦しんで納めるものを畳の上にいて楽々と1日でとるのである。 (井原西鶴「世事見聞録」より) |
「2000両ってどれくらい?」 1両がだいたい12万円ぐらいだから・・・・(黒板に計算式を書いて計算する)・・・「2億4000万円!!すげー」
そう。すごいね。もっともこの店でもいつも2億4000万円の売上があったわけじゃないことは「お祝をする」ということでわかるね。
じゃあこの三井さんの商売の秘密をさぐってみよう。資料集のp98『新商法で大当たり』をあけてください。
この三井さんのお店は越後屋呉服店っていうんだ。今は名前をかえて『三越デパート』になっている。この資料の絵は神田駿河町の越後屋本店の
様子を描いたものだ。しばらくじっくり見てごらん。
お店の上のほうに服がぶら下がってるね。これなんだと思う?。「見本かな?」 見本って?。「こんな服売ってますていう意味」 なるほどそうかもし
れないね。じゃあ、その見本の服の横の人の名前はなんだと思う?。「店員さんの名前?」 そう。じゃあ何のために店員さんの名前を書いてあるの
かな?。・・・・「わかんないよ!!」 そうか。これはね、こういう服が欲しい人はこの店員を呼んでくださいというものなんだ。『若三郎さん!長吉さ
ん!』って呼べば『へえーい』とその服に担当の店員さんが出てくるという仕組み。越後屋の新商法の一つだ。したの他の店と越後屋の商売のしか
たの違いの表を読んでごらん。
他の店は訪問販売という方法で品物をお客さんの所にもっていくけど、越後屋は?・・。「店前売り!」 そう。お店にきてもらうやりかただね。支払
い方法は、他の店は後払いで値段もその分高いけど、越後屋は?・・・。「現金売り掛け値なし!!」 そう。現金払いだから利息含みの掛け値では
ないので、その分安いわけだ。他にも他の店がやっていない工夫があるね。「即日仕立て!!」 その場で注文服を仕立てるやりかただ。「他の店
はどうするの?」 普通は呉服屋さんは布を売るだけ。買った人が自分で仕立てるか、仕立て屋さんというお店に持っていって作るかしなければいけ
ない。「ずいぶん便利になったんだ」 そうだね。他の工夫は?「既製服や特価品!」 既製服ってなに?(すぐにはわからないみたい)。既製の製の
意味は?。「つくる!」 じゃあ、既は前もってとかすでにという意味だ。「すでに作ってある服?」「なんだ。今の服屋とおんなじじゃん。」 そうだね。で
は特価品って?。「特別に安いもの」「あっつ、バーゲンセールだ。」「これも今と同じだね。」ほかにもいろんな工夫があるが、最後に一つ。他の店は
後大家相手とあるが、どういう意味かな。「大名のことかな?」 うん。そうだね。じゃあ越後屋はだれを商売の相手にしているの? 「庶民あいて!」
そうだね。その庶民って誰をさしているのかな。「庶ってどんな意味?」 うん。他のとか普通のとかいう意味じゃあないかな。「わかった!農民。町人
職人!」 「お金持ちじゃあない人!」 そんなところだろうね。
板書事項 ○越後屋が他の店と違うところ @現金売り・掛け値なしで安い |
さてそこで質問です。『なぜこのような新しい商売が可能になったのか』 「可能になるって?」 そういう商売ができるようになったのはなぜかという
こと。もしくはそういう商売がうまくいったのはなぜかということかな?。
ではみんなの意見を聞いて見よう。「安くて便利だからうまくいった!!」 なるほど。他には?。「布を売るのと服を作るのとが同じ店で便利だか
ら」 そうだね。他には?。「庶民がやって欲しいと思っていたやりかたで商売したから」 おっつ、なるほど。「庶民の生活が楽になって服を買えるよう
になったから」「 という予想だね。他には?。「大名じゃあなくて。庶民を相手にしたから」 どう言う意味かな?。「大名よりも庶民の方がたくさんいる
じゃあないですか。だから、この方がもうかるってこと」 あっつなるほどね。ではみんなの意見を整理してみよう。
板書事項 ○なぜ新商法が可能になったのだろう? ・庶民の生活が豊かになり、服を買えるようになったから?⇒今後検討! ・庶民の望んでいた安くて便利なお店だから。 ・大名より人数の多い庶民を相手に商売したから。 |
じつはね、江戸時代は各地に大きな都市ができて、町人の人口が多くなった時代でもあるんだ。越後屋があるのは江戸という町でしょ。その町に
住む人、つまり大部分は庶民なんだけど、その町に住む人が増えていることも、越後屋のような新商売が出てきた理由でもあるんだ。ここで資料A
を見てみよう。
<夢の浮世> 資料A 都市の発展 ○都市の人口
|
江戸時代の大都市を人口の多い順に並べてみたんだが、都市の性格に注目してみよう。多くの都市は?・・・。「城下町!!」 そう、城下町だね。
これは戦国時代が終わって、大名の城を高い山の上ではなく、平地で交通の便の良いところに作りなおして、その城のまわりに大名の家臣や職人
や商人を集めて住まわせて、新しく町をつくったんだ。資料Aの「都市の仕組みの図を見てご覧。
例えば彦根だと、城のまわりに「士卒屋敷」といって大名の家来の家が集まっている。そのまわりに「町屋敷」といって、職人や商人の町がある。例
えば「大工町」とか「魚屋町」といったふうにね。「あっつほんとだ。」 そしてこの町も道路を見てごらん。白い部分だけど・・・・。「真っ直ぐだ!」「直角
に交わっているよ!」「町が四角い形をしている!」 そう、これが新しく作られた町の特徴なんだ。江戸も同じだよ。江戸城を中心に渦巻き型にいろ
いろな町が並んでいるけど、これも彦根のような形で作られているんだ。江戸の人口はどれくらいだっけ?。「53万6380人」 これが町人の人口
だ。つまり庶民。越後屋さんが商売あいてにした人ってこれだけいたんだよ。それにほぼ同じ数の武士も居た。
ところでもう一度「都市の人口」の表にもどるけど、城下町ではない大都市があるね。「大坂!」「京都!!」 そうだね。これは江戸時代より前から
あった大都市で、商人や職人の町。でもそれぞれは少し役割がちがうんだ。(板書する)
都市名 |
大坂 |
京都 |
都市の性格と役割 | 天下の台所 ※日本中の品物が集まり ここから全国に送られる |
日本一の工業都市 ※織物・刃物・なべかま などが作られ、全国に送られる |
そしてこれ以外にもたくさんの町ができた。例えば川崎は東海道の宿場町川崎として出来、そのそばの川崎大師という有名なお寺の前に大師町と
いう門前町ができて、後に二つがくっついて今の川崎になったんだ。みんなの住んでいる二子・溝口も宿場町だ。「宿場って何?」 宿屋など旅をす
る人に必要な店が集まった町ということ。あそこの川崎信用金庫のところで学校の前の府中県道に交差する道路あるだろ?。「大山街道?」 そう。
大山街道だね。その大山街道の宿場町としてできたんだ。とくに二子は本当は今よりもっと南にあった小さな村だったんだけど、大山街道が出来る
というので村をあげて街道沿いに移り住んで、今の形になったそうだ。「へえー、知らなかったよ!!」
こんなふううにたくさんの町ができて町人の数が増えた事も、越後屋さんのような新しい商売ができた理由の一つなんだね。
じゃあ、最後にノートの一番下の問題で今日やったことを確認しよう。
○都市が各地に生まれたのは? [ ]の結果農村からはなれ都市に住む事になった武士のために 各地の大名の住む城のまわりに商人・職人を集めた[ ]町ができ たから。 |
わかるかな?。「二つ目は城下町だね。」 そう。「でも一つ目がわかんない!!!」 じゃあ、ヒント。武士を農村から都市に移らせ、農民と武士と
の身分を分けようとしたことを何という?。「うん?」「わかんない?」「あっつ、兵農分離?」 そう。正解です。兵農分離の結果、たくさんの城下町が
できたんだね。ところでこの兵農分離をやったのはだれだっけ。「秀吉!!」「豊臣秀吉!!」 そうだったね。では今日はこれでおしまい。