ワークシェアリングについてA −@に関わるやりとりー


アイさんの意見(@)に対するコアラの意見ー労働組合のありかたが問題!−
 教育問題対談・個人として生きるに掲載されたワークシェアリングについてのご意見興味深く拝見しました。個性を存分に生かすと
言う考え方からこの問題に突き当たられたとのことですが、この視点から論じた点がとても新鮮でした。
 ワークシェアリングは従来労働組合の側からは不況化での深刻な問題である失業の問題を労働者同士の連帯の観点から取り上げられ、
経営者からは労働力の高コスト構造の見なおし=賃下げの観点で取り上げられていました。
 失業問題を緩和するという労働者の連帯を作り上げて行くときに、それぞれの労働者が普通に生活できる程度の賃金を得ながら労働時
間を個に応じて削減し、各自の生き方を追求する条件を確立すると言う観点は重要だと思います。それは単なる失業対策と言う範囲を超
え、労働のあり方を考えそれを労働者の主導下で実現すると言う、職場を労働者が管理する思想を強化し実現するからです。
 しかし、アイさんも指摘するようにもっとも大きな問題はワークシェアリングがともすれば労働者の賃金を削減する経営者の側の論理
で実施される事を阻止しなければ、働き方の問題=生きかたの問題を考える契機としてのワークシェアリングは実現しません。
 この観点からすると労働者の権利をいかに守りながら実施するかが問題の核心であり、それは誰の主導権の下でこれを実施するかにか
かります。やはり核心は労働組合のありかたにあるのではないでしょうか。労働組合が働き方=生き方の問題としてこの問題を認識し、
労働者を組織し経営者に圧力をかけていくことなしに、これは実現しないと思います。今の労働組合の主流はこんな観点で運動していま
せん。

コアラの意見に対するアイさんの意見・質問

 はじめまして、アイです。 早々に、ご意見また、解説をお寄せくださいまして、ありがとうございました。
> しかし、アイさんも指摘するようにもっとも大きな問題はワークシェアリングがと
> もすれば労働者の賃金を削減する経営者の側の論理で実施される事を阻止しなけれ
> ば、働き方の問題=生きかたの問題を考える契機としてのワークシェアリングは実現
> しません。この観点からすると労働者の権利をいかに守りながら実施するかが問題の
> 核心であり、それは誰の主導権の下でこれを実施するかにかかります。やはり核心は
> 労働組合のありかたにあるのではないでしょうか。労働組合が働き方=生き方の問題
> としてこの問題を認識し、労働者を組織し経営者に圧力をかけていくことなしに、こ
> れは実現しないと思います。今の労働組合の主流はこんな観点で運動していません。
 専門的な視点から考察なさると、ここに行きつくわけなのですね。
「労働者の権利をいかに守りながら実施するかが問題の核心であり、それは誰の主導権の下でこれを実施するかにかかります」とありま
すが、ご尤もだと思います。
 私は、自身の活動理念として、何事においても、対処療法を過信せず、根元的治療に重点をおくよう心掛けております。
 環境が人格に与える影響は多大ですが、人間の意志・意向が環境に作用するのも事実です。
 そこで、この問題に関して、先ず、取り組みたい要点は個人の内面にあります。それは、「メディア リテラシー」の回から申しており
ますように、人々の意識から見つめ直していきたいと考えています。
 その人々の意識形成には、本能的なもの、慣習によるものなど様々な起因がありますが、それ以外にも、周囲を取り巻く情報などから、
必要以上に影響を受けているように感じられることがあります。
 そして、そうした人の多くは、富や地位や名声を築くことこそ生きる指針、最上の価値と信じます。
 そこで、私は、今後、『人によって気質や思考法が異なるのと同様に、その価値観も多種多様に存在するのです』ということを、具体
的な検証とともに、時間をかけてゆっくりと、広く唱えていくつもりでおります。
 よって、仮に、現在よりも、それが浸透したとしたら、人々がそれまで囚われていた画一的な価値観から、開放され始めると考えられ
ないでしょうか。 
 だとしたら、「労働者の権利」の基準内容も緩やかに変化してくると思われ、またその変化は、経営者側においても同様ですので、こ
のことから、労働者側は、報酬以外にも価値を見いだし、また、経営者側は、これまでのような効率・能率主義に終始することのみに留
まらなくなれば、すなわち、相互理解に近づき、さらにはそれに伴い、労働環境も整ってくると考えます。
 また、コアラさんに伺いたいことがあるのですが、「労働組合の主流」は、現在、何について最優先させているのでしょうか。そして、
その理由とは・・・
 お忙しいことと存じますが、ご教示くださいましたら幸です。

コアラの意見とアイさんの意見(@)に対するスマさんの意見・質問
 日本では、労働組合の組織率が3割以下だと聞いた事があります。そして、そもそもその3割ですら有効に機能していないらしいです
ね。アイさんの質問にもある通り、現在の労働組合の状況を簡単に説明して頂ければと思います。
 僕が想像するのは、明治以降の富国産業政策から高度経済成長に至るまでの「モーレツ的」な働き方によって論理的に自分達の権利に
ついて考える力を骨抜きにされてしまっているのではないか?という事ですが、どうでしょうか。

 

 僕はアイさんがワークシェアリングを導入するに当たっての壁としてアイさんが挙げている五つにもう一つ足りないと指摘しました。
五つとは、
 1.賃金と時短の兼ね合い
 2.根本からの経済システムの再構築
 3.職業意識の向上と職能・技能の養成
 4.ワーク シェアリング導入に向けての環境整備
  5.社会保障の充実など
なんですが、もう一つ『思想の必要性』を付け加えたいと思います。
 ワークシェアリングで時短が実現されても、その後に時間をきちんと有効に使える必要がありますが、それには『思想』が欠かせない
と思います。思想というのは、宗教というよりもむしろ「歴史的」である方が良いですね。思想が無いと単に抜け殻になってしまうから
と考えていたのですが、コアラさんからのメールを頂き「思想」が無いと労働者も資本家に良いようにあしらわれてしまうという点も気
付きました。
 つまり、「労働者の権利」を労働者が本当に必要だと思わなければこれが実現されないわけですが、それには歴史的認識に伴う「思想」
が必要だと考えます。
 そこで、コアラさんとアイさんに質問があります。
「思想」を獲得するためには、歴史学習などのためのまとまった時間が必要だとして、先行すべきはワークシェアリングでしょうか?
思想獲得でしょうか?思想を獲得しないままワークシェアリングを導入するとコアラさんご指摘の通り労働者は資本家の餌食となりかね
ません。しかし、時間が無ければ歴史学習などしている暇は無い。
 このへんに一つのジレンマを感じるのですが如何だと思いますか?歴史学習が前提となっている点が可笑しいと感じるかもしれません
が、本当の意味で支配者階級に立ち向かいたいなら「知識武装」は必要条件であるというのが僕の理念でもあります。

アイさんスマさんの質問に対するコアラの回答―日本の労働組合の現状―

 現在の日本の労働組合の主流派は「連合」と呼ばれている経営者べったりの立場の労働組合です。この組合は各企業の従業員だけでつ
くられた企業内組合を基礎単位としてその産別連合体を組織し、その産別連合体の連合体としての「日本労働組合総連合会(略して連合
)」を組織しています。これが我が国最大のナショナルセンターです。
 この組合の役員は基本的に企業の経営者と同じエリート社員が会社の労務政策を担当する部署の別働隊としての労働組合の幹部として
選抜されます。したがってその意識は企業の経営者と同じですので、ワークシェアリングを考えるときに労働者の連帯とか個としての自
立とか職場の労働者管理とか言う立場では考えません。日本でワークシェアリングを最初に取り上げたのは日経連(日本経営者連合会)
です。
 ヨーロッパでは未曾有の倒産失業の中で労働者の連帯と働き方の再検討の立場から労働組合がワークシェアリングを要求し、積極的に
提案し労働者を教育しています。
 私はワークシェアリングは不況と倒産失業の中で個別に分断されがちな労働者を一つにまとめ意識をきたえ経営者=資本家から自立で
きる思想を獲得させる行動指針だと考えます。
 つまり即実現する事が直接的な目的ではなく、おそらく失業を解決する手段としては唯一有効な手立てであるワークシェアリングを要
求する過程で労働者の思想を鍛えて行こうとするのものだと思います。経営者=資本家はけしてこの視点からは受け入れません。
 彼らにとっては賃金削減の手段としてしかワークシェアリングの意味はないのです。もしワークシェアリングが大幅な賃金削減を伴わず
に実施されるとしたら、それ以外に失業と景気回復とを同時に解決する手段がこれしかない事を多数の人々が認識し、それを背景に労働組
合が強力な圧力をかけたときだけでしょう。
 ヨーロッパではEUレベルでの国境を超えたレベルでの労働組合と失業者組合と政党の連合によってワークシェアリングを実現する運
動が推進されています。そしてこれは全ヨーロッパ縦断・横断デモという形で失業を増やさせない運動として行われています。
 ではヨーロッパでこのような形で労働者の連帯と結合と資本家から自立する思想の強化を目指す運動としてワークシェアリング提唱さ
れているのになぜ日本の労働組合ではこのような運動が出来ないのでしょうか。
 ここに日本とヨーロッパとの労働組合のでき方性格の違いがあり、その結果労働組合が関心を寄せている問題も関心の寄せ方も違って
くるのです。
 日本の労働組合の主流の連合が関心を寄せているのは大企業の正社員労働者の雇用を確保する事だけです。連合は事実上大企業の中の
派遣社員とかパートタイマーなどの臨時労働者、そしてその下請けの中小企業の労働者は除外したところでの正社員労働者。言いかえれ
ば企業の幹部となって行く労働者だけの組合になっています。しかも組織形態が企業内組合ですから幹部の意識は経営者と同じです。
 従ってワークシェアリングが経営者から賃下げの妙案として出されたときの連合の幹部の反応は「反対」でした。つまり賃下げ反対で
した。しかし経営者が正社員労働者の賃金は保証する形でのワークシェアリング、要するに派遣社員や臨時労働者や下請け労働者に適用
する形で提案してくるととたんに賛成の立場になってしますのです。
 しかしこれは正社員も聖域ではありえませんので、正社員の雇用を守る事のみ考えている連合の幹部はやはりワークシェアリングは否
定的です。しかしかれらは経営者が決めてしまえばそれに盲従し条件闘争にのみ取り組みますので、賃下げとしてのワークシェアリング
が実施される危険があります。
 ではなぜヨーロッパでは違ったかたちで運動が進むのか。それは労働組合が企業別ではなく産業別で組織されているからです。企業を
超えた形の労働組合。
 各企業には支部が置かれているだけ。その企業の正社員だろうが臨時社員だろうが関係なく個人の資格で加入できます。ですから組合
費の給料天引きではなく労働者個人が自分で払い込みます。つまり労働組合が必要である、自分の権利を守る事が必要であると考えてい
る労働者のみが個人の資格で参加するのです。しかもヨーロッパの労働組合は産業別の上に実は職種べつなのです。
 ホワイトカラーという幹部候補の社員は社員で、ブルーカラーといわれるいわゆる労働者は労働者でそれぞれ組合を作ります。ですか
ら一つの企業にはいくつもの全国規模の労働組合の支部があるので企業と交渉するには企業内の全労働者で選挙をしてだれが交渉権をも
つ労働者の代表かを決めなくてはなりません。ですから各職種の組合から代表者が立候補しますが多数を得るためには全労働者の利益を
政策として掲げないと代表にはなれません。ヨーロッパの労働組合はこう言う形で組織されますので企業からも経営者からも独立した考
えで動きがちなわけです。
 ここまで述べてきて御わかりいただけたと思いますが、日本でも労働者の連帯の観点から闘いを組みその中で労働者の思想を鍛えて行
こうとする運動が出来るとすれば、それは企業を超えたところで組織された労働組合だけだということが御わかりいただけるでしょう。
 ではそんな労働組合はあるのか?。あるのです。一つは海員組合。そして全繊同盟。さらには全港湾。そして全国一般。
 これらの組合は連合傘下の組合ですがどれもほぼ企業を超えた組織のされ方がされていますので、意識は経営者とは別ですし、企業の
利益を守ろうと言う意識は弱い組合です。そしてこの組合はどれも中小企業がその主な基盤ですし、大企業も含まれていた全繊同盟はこ
の間の不況とリストラと正社員の大幅削減臨時労働者への転換の条件の中で臨時労働者や下請け労働者の中に企業をこえてオルグを派遣
し、組合を組織してきています。
 現在ワークシェアリングを労働者の連帯・働き方の問題として捉え始めて行く可能性はこれらの組合の中にあります。(これらの少数
派の組合にとっての現在の最大の関心事は雇用の確保です)
 さらにこの中の全国一般系の人たちが組織した管理職ユニオンとか失業者ユニオンは同じ可能性を持っており、最近これらの組合の中
の指導的な立場の人たちが失業をなくし労働者の連帯を確保して行くための労働運動のあり方や組合のあり方を考える連絡組織を作りつ
つあります。
 労働組合の現状は以上です。
 またこれでスマさんの質問。ワークシェアリングが先か思想の獲得が先かという質問にもお答えしたと思います。
 ワークシェアリングの提案そのものが運動を進めて行く中で思想を強化する運動だからです。また歴史の学習というのもその運動の中
で必要に応じて行われるでしょう。
 おそらくは最初は組合の中の活動家といわれる人たちの中で。労働組合の歴史や労働運動の歴史の再検討。組合のあり方や運動のあり
かたの歴史的総括と言う形でおこなわれ、運動の進展とともに大衆の中にも浸透していくことと思います。
 学習と行動の関係も、学習のあとで行動ではなく、行動の中で学習されそれを基礎に行動が深化拡大されそのなかでさらに学習も深ま
るという相互作用であり相互に発展し会う関係(これを哲学的には弁証法的関係といいます)にあります。

コアラの回答に対するアイさんの意見

コアラ様
 詳細な解説をいただきまして、ありがとうございます。
 欧米、特にヨーロッパでは、階級・階層意識が根強いため、労働者間の横の繋がりが、堅固になるのは必定と言えますね。
 そして、日本においても「〜そして全国一般。これらの組合は連合傘下の組合ですがどれもほぼ企業を超えた組織のされ方がされてい
ますので、意識は経営者とは別ですし、企 業の利益を守ろうと言う意識は弱い組合です。〜」とありますが、もちろん、存じております
が、これが欧米のそれに近いものと言ってもよいと思います。成り立ちにおける歴史的背景や性質は別として、役割的にということです
が。
 私はもともと、某企業に籍を置いていましたが、当時は今と比べると、女性の社会的地位や意識も低くく、また、私が在籍した会社に
限らず、一般的にもそういった言い知れぬ重圧感のようなものがあり、せっかく、仕事の面白さを覚えても、余程の信念がない限り(根
回しなども含みます)会社人間の意のままにされてしまうといった風潮がありました・・・
 また、学生の頃から歴史や文化には、一際関心があり、コアラさんとは、到底比較にはなりませんが、だいたいの大まかなことは知識
として持っています(?)
 そして、その動かすことの出来ない“史実”を参考にしております。
 ・・・しかし、私個人としては、既成や現状に必要以上にとらわれず、真っさらな状態から始めようと考えています。
 ですので、その成果が現れるのが、いつになるかは断言できません。でも、やってみないことには分からないと思うのです。 
 歴史的出来事のその前には、やはり、無に等しい状態が存在している訳ですから、まるで意味を成さないことではないと信じたいと思
います。
>この中の全国一般系の人たちが組織した管理職ユニオンとか失業者ユニオンは同じ
> 可能性を持っており、最近これらの組合の中の指導的な立場の人たちが失業をなくし
> 労働者の連帯を確保して行くための労働運動のあり方や組合のあり方を考える連絡組
> 織を作りつつあります。
>  労働組合の現状は以上です。
大変、参考になりました。今後の活動に注目したいと思います。
>  またこれで須田さんの質問。ワークシェアリングが先か思想の獲得が先かという質
> 問にもお答えしたと思います。ワークシェアリングの提案そのものが運動を進めて行
> く中で思想を強化する運動だからです。また歴史の学習というのもその運動の中で必
> 要に応じて行われるでしょう。おそらくは最初は組合の中の活動家といわれる人たち
> の中で。労働組合の歴史や労働運動の歴史の再検討。組合のあり方や運動のありかた
> の歴史的総括と言う形でおこなわれ、運動の進展とともに大衆の中にも浸透していく
> ことと思います。学習と行動の関係も、学習のあとで行動ではなく、行動の中で学習
> されそれを基礎に行動が深化拡大されそのなかでさらに学習も深まるという相互作用
> であり相互に発展し会う関係(これを哲学的には弁証法的関係といいます)にありま
> す。
「組合の中の活動家といわれる人たち」といった牽引役は重要ですので、ぜひ、風通しの良い広報を望みます。
 「学習と行動の関係も、学習のあとで行動ではなく、行動の中で学習されそれを基礎に行動が深化拡大されそのなかでさらに学習も深
まるという相互作用 であり相互に発展し会う関係(これを哲学的には弁証法的関係といいます)にあります。」とのお言葉には同感です
。このように進めていきたいと考えます。
 私も歴史そのものを学ぶことに関しては大変意義深いことと確信しておりますが、ただ、実際、行動に移す際には前述しましたように、
自由な発想で補いながら、また別の角度からも入ってみようと考えます。

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