第2学年の取り組み 〜多摩川自然観察〜

1 活動内容(今までに調べてきたこと)

 (1) 自然観察の概要

    @ 水質検査…ア.底生生物や藻を採集して水質を検査する。

             イ.簡易検査パックを使用して、科学的に水質を検査する。

           〔水素イオン濃度・残留塩素濃度・化学的酸素消費量(COD)りん酸イオン濃度の4種類を測定〕

    A 生物調査…ア.植物を採集する。

           イ.昆虫を採集する。

           ウ.鳥を観察する。

             エ.魚を釣る。

     B ゴミ調査…河原のゴミの種類と量の調査。

    C その他 …ア.河原の石を採集する。

           イ.水中カメラでの撮影。

    D 歴史調査…ア.洪水の歴史。

           イ.水質の変化。

          ウ.多摩川と人々との関わり。(生徒各自が近所の人10人にアンケート調査)

 (2) 発表の方法…文化祭での展示と実験体験コーナー、シンポジウム形式での発表と討論会。

  (3) 取り組みの経過

    @ 取り組みの概要と目標の決定…96年6月学年委員会にて。

          ―――テーマ「ふるさとを知る―――多摩川――」―――

      今住んでいる地域を深く知るために身近で自然のある多摩川を3年間調査する。調査項目は各クラス討議で、生徒達が知り

     たいことをあげて決定。

    A 調査した日時と場所

     ア.96年9月21日―平瀬川合流地点を中心に二子橋付近(中流)

     イ.97年5月31日―      同上

     ウ.97年9月25日―丸子橋上流ノ調布堰付近(下流と中流の境)

     エ.971010

              ○河口近くの大師橋付近(下流)  ○関戸橋(東京都府中市)付近(中流)

              ○羽村堰付近(上流と中流の境)  ○御岳渓谷(上流)

     オ.971019

              ○奥多摩湖と付近の沢

              ○浅川(八王子を流れ関戸橋上流で多摩川に合流する川)と多摩川との合流点付近

       カ.97年8月―多摩川源流と奥多摩湖上流ノ渓流(教員のみ)

 (4) 取り組みの形態と組織

  @昨年度

     ア.多摩川の自然観察はクラスの生活班単位とし、学年全員でウォークラリーで実施した。

     イ.文化祭にむけて、以下のテーマでクラス毎に分担し、追加補足調査を実施した。

      (a) 水…水質検査のまとめ浄化実験装置づくり。二子橋上流下流の水質検査も実施。

      (b) 川の中の生物…藻や底生生物のまとめと魚の採集。1週間二子橋付近で魚を釣る。

      (c) 川辺の生物…採集した植物の標本づくりと多摩川に住む鳥や昆虫を調査。

        (d) 川に流された物…採集した石の種類と利用方法。硯を製作。川のゴミの種類。

      (e) 川の歴史…聞き取り調査のまとめと洪水の歴史を調査。

  A今年度

     ア.5月の自然観察は生活班単位として、学年全員で実施した。

     イ.9月以降の調査はテーマ毎に生徒各自の興味に基づきクラスを越えたチームを作り、各チームに別れて調査研究を実施し

       た。

      (a) 水…○水質調査班(上・中・下流の各地の水質検査を実施する。)

         ○聞き取り班(役所や地域の人々を訪ね、水質汚濁の現状や対策を調査。)

         ○歴史調査班(川の汚れの変化や原因、川の浄化作用などを調査。)

      (b) 魚…○調査収集班(上・中・下流の魚を釣る。)

         ○模型制作班(多摩川に多く見られる魚を調べその模型を製作する。)

         ○文書調査班(多摩川の魚の種類とその変化を調べる。)

      (c) 生き物

         ○実態調査班(上・中・下流の昆虫、植物を採集する。)

         ○標本制作班(採集した植物の標本の制作。昆虫や鳥の模型の製作。)

         ○文書調査班(多摩川の植物・昆虫・鳥の種類とその変化を調べる。)

      (d) ゴミ

         学区の川のゴミの実態調査と行政などに対策の聞き取りを実施する。

2 取り組みのねらい

   (1) 自然観察を主体としたのは、実際の多摩川の自然に触れることを通して、人間をとりまく自然に対する感受性を高めることをね

   らったためである。水質検査では、生物調査を行い、汚れていても川は生きていることを実感した。様々な生物の生活の場として

   多摩川を捉えることができ、自分たち人間を含めた生物の生活の場を人間が汚し、破壊していることへの疑問や反省が生き物への

   共感を伴ったものになった。そうしてこそ、川の自然を破壊した原因を科学的に追求しようとする意欲を高め、環境へ主体的に働

   きかけていく姿勢を育てるものと思う。

   (2) 様々な歴史調査を行ったのは、今ある自然そのものが人間との関わりで生まれたものであり、私たち人間の暮らし方の問題とし

   て環境があることに気づく重要な契機となると考えたからである。

   (3) 行政の対策など聞き取り調査を行った目的は、現に河川の環境破壊に対してどのような対策がとられているかを学ぶことをし、

   環境を保全・復元できる可能性があることを知ると共に、今後自分たちがどのように環境に接していけばよいのかを考える契機と

   なると考えたからである。

   (4) 個々のチームの研究を全体のものとし総合するために、シンポジウムを実施した。

   (5) 生徒一人一人の興味と関心を深め、環境に対する自発的な取り組みを促すために、今年は自由な班編成で調査研究活動を実施し

   た。

3 調査活動でわかったこと(概要…詳しいデータは別冊資料を参照のこと)

   (1) 多摩川の水質の現状

              ○底生生物と簡易検査パックによる。    

調査グループ名 川崎市立西高津中学校2学年
調査の実施場所 御岳渓谷 羽村堰下 関戸橋上 二子橋上 丸子橋上 大師橋下
調査実施年月日 7.10.10 97.10.10 97.10.10 97. 5.31 97. 9.25 97.10.10
天候  晴れ  晴れ  晴れ くもり くもり  晴れ
川の流れの速さ はやい はやい はやい ほとんどない おそい ほとんどない
採取した場所の水深 40p 10p 30p 30p 30p 30p
川底の状態 石が多い 苔がある 石が多い 砂利と砂 石と泥  泥
川の濁り・臭い 特になし 透明 くさい 濁っている くさい 少し臭い
水質 生物名   出現したものは○  特に多いものは●
 T

 き
 れ
 い
 な
 水

カワゲラ  ○          
アユミ            
ブユ            
サワガニ  ○          
(ナガレトビゲラ)            
(ヒゲナガカワトビゲラ)            
 U

 少
 し
 き
 た
 な
 い
 水

ヒラタドロムシ            
イシマキガイ     ○        
カワニナ            
(ゲンジボタル)            
(オオシマトビゲラ)            
コガタシマトビゲラ)            
(セタシジミ)            
(ヤマトシジミ)            
 V

 き
 た
 な
 い
 水

シマイシビル      ●  ●  ●  ○
タニシ    ○        
ミズムシ    ○    ●    
フジツボ            ●
イソコツブムシ          ●  ○
ニホンドロソコエビ          ○  ○
 W

 大
 変
 き
 た
 な
 い
 水

オオユスリカ            
ハナアブ            
イトミミズ      ○    ●  
ゴカイ            ○
サカマキガイ         ●    
アメリカガイ      ○      
簡易水質検査 COD  0  0  10  20  5  5
りん酸 0.2 以下 0.2 0.5 1.0 2.0 1.5

○科学部による測定(水は2年生が採取した)

  サンプル採取場所 リン酸濃度 アンモニア性窒素 亜硝酸性窒素 COD 採集日時など
源流下湧水 0.4r/l 0.2r/l 0.02r/l 3.5 97.8.22連日晴れ
一之瀬川上流 0.2 0.2 0.01 3.5 97.8.22連日晴れ
丹波川(オイラン淵) 0.3 0.2 0.02 97.8.22連日晴れ
奥多摩湖 0.2 0.2 0.01 97.8.22連日晴れ
奥多摩駅前橋下 0.3 0.04 3.0 97.8.1 7月末台風
御岳渓谷 0.1以下 0.5 0.03 2.5 97.10.10連日晴れ
羽村堰下 0.3 0.3 0.01 97.10.10連日晴れ
淺川(多摩川支流) 0.8 0.4 0.08 5.0 97.10.19連日晴れ
程久保川(同支流) 0.7 0.6 0.03 5.0 97.10.19連日晴れ
10 関戸橋上流 1.3 0.6 0.08 97.10.10連日晴れ
11 二子下水流入口 2.0 3.7 0.25 10 97.5.31 連日晴れ
12 二子橋上流 1.4 1.2   97.5.31 連日晴れ
13 調布の堰上流 1.5 0.7 0.1 97.10.15連日晴れ
14 調布の堰下流 1.2 1.0 0.18 97.10.15連日晴れ
15 丸子橋下 2.5 3.0以上 0.5以上 20 97.9.25連日雨多し
同 下水流入口 3.6 3.0以上

測定限界

0.5以上

測定限界

40 97.10.15連日晴れ
16 大師橋下 0.9 2.4 0.33 10 97.10.10連日晴れ

・りん酸(PO)

りん酸値(ppm=r/l)   0.2        0.20.5       12         25         5

          きれいな水  少し汚染がある  汚染がある  汚染が多い   汚れた水

・亜硝酸(NO)

亜硝酸値(ppm=r/l)   0.02       0.020.1     0.10.2       0.20.5      0.5

         きれいな水  少し汚染がある  汚染がある   汚染が多い  汚れた水

・化学的酸素消費量(COD)

COD値(ppm=r/l)    0         02         25         510       10

         きれいな水  少し汚染がある  汚染がある  汚染が多い   汚れた水

  この調査から以下のことがわかった。

    @ 奥多摩湖まではきれいな水といえる。

    A 御岳渓谷は比較的きれいだが、少し汚染されており、その原因は奥多摩駅下で下水が流入していることにみられるように、

      下水道の未設置と考えられる。

    B 奥多摩駅から御岳の間で川が少しきれいになっており自然に浄化されたものと考えられる。

    C 関戸橋から下流がとてもきたないのは、それまでに多摩川に合流する支流の川が汚染されているからと考えられる(浅川な

      ど)。

    D 丸子橋下の下水は処理場の処理水だがかなり汚れている。等々力環境センターによると2次処理の終わった排水だそうだ

      が、処理が不十分なのがわかり、このような下水処理の不十分さも、川を汚す原因の一つと考えられる。

    E 二子の下水流入口の水がとてもきたないのは、下水道事務所によると、不法な排水の投棄によるものという。これも川を汚

      す原因の一つと考えられる。

 (2) 多摩川の生物の種類とその変化

    @ 鳥……水質が汚れるとともに鳥の種類が減り、少しきれいになるとまた種類がふえてきた。

    A 昆虫…開発が進と共に、昆虫の住む場所がなくなり、多くの昆虫が滅びてしまった。しかし、水質が良くなるにつれ、また

         戻ってきた昆虫もみられる。

    B 植物…帰化植物がふえつつあり、在来植物が減っている。在来植物は川に栄養分がなくても育つが、多摩川が汚れ、水に栄

         養分が増えたことで、帰化植物が増えてきたと考えられる。

    C 魚……昔の多摩川にはきれいな水質を好む魚がたくさんいた。水質が汚れていくにしたがって、このような魚の姿は消え、

         水質汚濁に強い魚が中流や下流に広がってきた。

 (3) 今と昔の水質の変化とその原因

    @ 水質の変化

       昭和40年代から汚染が深刻化し、昭和45年には調布堰で飲料用水の取水が禁止された。しかし、昭和52年をピークに水

      質は改善され、少しずつきれいになってきている。

    A 汚染の原因

       住宅地や工場の多い地域を流れる多摩川は、それらの排水によって汚染されたと考えられる。現在でも支流の流域は下水

      道の普及が遅れ水質は悪いままで、多摩川を汚染する原因となっている。特に八王子を流れてくる浅川の汚染がひどい。ま

      た、丸子橋したの下水放流口の例でわかるように、下水処理施設で処理しきれないほどの汚水が各家庭などから出されてい

      ることも、川の汚染の原因だと考えられる。

 (4) 水質汚濁に対する行政の対策

    @ 建設省河川局

      ・工場排水の規制、ヘドロ浚渫など。

      ・平瀬川合流点のように河川内に自然浄化作用を取り入れた浄化施設を建設する。

      ・定期的に水を採取して水質検査をする。

    A 等々力環境センター

      ・下水道普及率をあげる。

      ・下水処理水の排水基準を年々厳しくしていく。

      ・現在2次処理までなので3次処理ができるようにしていく。

 (5) ゴミの現状と対策

    @ 河川敷だけでなく河原にもたくさんのゴミが放置されている。

    A ゴミそのものは河川の水質にはあまり大きな影響は及ぼさない。

    B 土手や河川敷のゴミは公園事務所が業者にたのんで処理しているが、河原のゴミは時々ボランティアが片づけているだけ

      で、特に対策はとられていない。

 (6) 自然の川の浄化作用

    川には自分の力で水を浄化する力があり、それに必要不可欠な条件は、

     ア.水の流れ…不純物を分裂させる働きをもつ。

     イ.水中植物…光合成により酸素をつくり、水中の不純物を燃焼させる。

    川の汚染が進むと植物がへり、その事で水のながれもゆるくなるため、浄化能力は落ち、そのうちに浄化能力を失ってしまう。

   しかし、汚れた川でもある程度の水のながれがあり、水中植物が生えていれば少しずつ水をきれいにしていける。

 (7) 多摩川と人々との関わり(アンケート調査による)

    96年9月に生徒一人一人が家族や近所の人約10人にアンケート調査を実施した。アンケート項目は以下のようなもの。(アンケ

   ート解答数は1223人)

     ア.多摩川・平瀬川・二ヶ領用水で泳いだこと、魚を釣ったことがあるか?

     イ.多摩川・平瀬川・二ヶ領用水が洪水を起こしたことを知っているか?

     ウ.この付近の川は汚れていると思うか?。またその原因は何か?

    多摩川で泳いだ事がある人は50代以上になると60%を越し、二ヶ領用水や平瀬川でも50代以上だと40%が泳いでおり(男性の

   場合)、昔はかなり川がきれいだったことがわかる。また多摩川の洪水については40代以上では60%以上の人が知っているが、

   直接体験した人はいない。

    さらに川の汚れについては全世代で60%以上が汚れていると答えたが、その原因についての認識はまちまちである。

4 生徒の意識の変容

 (1) 学区の多摩川の自然観察をおこなって96年9月)

   下の表は昨年の多摩川自然観察のあとの感想文に書かれた内容を分類集計したものである。

  合計
楽しかった 48% 63% 55%
思ったより川が汚い 15% 19% 16%
川は汚い 16% 33% 24%
生物の多さに感動した 30% 39% 34%
ゴミが多い 29% 43% 35%
川をきれいにしたい  6% 17% 12%

   そして川の水の汚れやゴミの多さについての感想とむすびついて『生物が多くてビックリした』という感想が多く出ている。多摩

  川はとても汚いというイメージを多くの生徒はもっているようで、「こんな汚い川にも生命が息づいている」ことへの素直な感動を

  あらわしているものと思われる(下の感想文を参照のこと)。

 虫が思ったよりたくさんいた。ヒルもいた。小さな魚もいた。川の中の石の裏にも、たくさんの生物が生きていて、さまざまな生活をくりひろげているようだ。川の中の虫の会話が聞けるものなら聞いてみたいものだ。

 陸にはたくさんの植物があった。ふだんは花などあっても見過ごしてしまっていて、どんな花があるかなんて気がつかない。でも今日のように植物も見る気持ちで見てみると、たくさんの植物がそこら中にあることがわかった。

 虫も植物も多摩川にある事はあるのだけれど、水と土と空気がもっときれいだったら、もっとめずらしい魚が泳いでいただろうし、もっとめずらしい植物があったと思う。

 これから多摩川が今よりきれいになるといい。

   この感想とならんで多いのは、「ゴミが多いのでなんとかしたい」というもの。あらゆる生活物資の廃棄物が河原や河川敷に散乱

  している状況を見ての率直な感想である。具体的提案として、『ゴミの観察などしていないで、クリーン作戦を毎月実施しよう』な

  どの意見をもっている生徒もおり、自分の問題として考えている事がわかる。

   『自分の知らない多摩川の姿を知ることができた』などの感想も多く、総じて多摩川の自然に直接触れる機会をもったことによ

  り、生徒たちのもっている多摩川についての既成のイメージを揺さぶり環境問題を身近な自分自身の問題としてとらえるきっかけと

  なったといえよう。

 (2) 2度目の多摩川自然観察で97年5月)

   季節をかえて実施するとともに前回の底生生物と藻による水質調査に加え、簡易パックによる水質検査を加えた。

   りん酸とCODの検査で特にはっきりしたことだが、見た目には透明できれいに見える川がかなり汚れた水であることがわかり、

  多摩川の水質調査をしてみようという意欲を持った生徒たちが出てきた。下の表はこの時の自然観察のあとで、今後どんなことを調

  べたいかを聞いたアンケートの結果である。

   ○今後どんな事を調べたらよいか(1997年5月31日実施)

どの程度工場排水や家庭排水が流れ込んでいるか  25人
何が原因で多摩川が汚れたのか  16人
上流と下流の違い   8人
どこが一番汚いか   3人
今のままだと川がどうなってしまうか   3人
いつから今のように汚くなったのか   2人
どこが一番きれいか   2人
川の流れの速さや深さ   1人

合計 60人

どのような魚がいるか  23人
どのような植物が多いか  21人
どのような昆虫がいるか  17人
どのような鳥がいるか   1人
どこに魚が一番いるか   1人
昔はどんな魚がいたのか   1人

合計 64人

ごみについて  32人
どんな人がゴミを捨てるのか   3人
どんな人がゴミを拾うのか   2人

合計 37人

多摩川に来たら何をするかをアンケートをとる   2人
昔と今の河原の変化   1人
どうしたら川がきれいになるか  18人
どうしたらゴミがなくせるか   2人

合計 20人

   水質検査の目的がどの程度工場排水や家庭排水が含まれているかを測定するものであったため、多 摩川の水を汚染した原因につ

  いて調査してみようという生徒や、上流・下流を含めて水質を検査し、二子橋周辺の状態を全体との関係比較してみようという意欲

  も生まれ、環境への関心はさらに深まっている。

   しかし、この段階では多摩川の自然を守る方法については大多数の生徒が『ゴミをすくなくす』と答えており、環境問題について

  の認識はまだ浅い。多くの生徒は現に目の前にある大量のゴミに意識が行っていて水質汚濁の原因を 認識していないか、家庭排水

  や工場排水に原因があることはわかっていても、具体的に知らないために解決方法を具体的に考える所までは行っていないものと思

  われる(下の表を参照)。

 

     ○多摩川の自然を守るには何をしたらよいか(1997年5月31日実施)

ゴミを捨てない  120人
ゴミを持ちかえる   11人
ゴミを拾う   50人
ゴミを減らすように呼びかける   17人
河原にゴミ箱をもっとたくさん作る    4人

合計  202人

水を汚さない    2人
家庭で洗剤などを流さない   10人
家庭で油などを流さない    7人
家庭排水を流さない(減らす)   12人
家庭排水をろ過してきれいにする    1人
工場排水をろ過してきれいにする    1人
排水の処理方法を変え、川に流さない    3人
工場や家庭の排水を川に流さないように呼びかける    1人

合計  37人 

魚を放流する    2人
植物や昆虫をむやみにとらない    2人
鳥や木を保護する    1人
コンクリートで固めない    3人

合計   6人

一人一人の心がけの問題    5人
川でものを飲んだり食べたりしない    1人

合計   6人

   ともあれ、水質検査を導入したことは、水質に対する関心を深めることとなった。

 

 (3) 上流から下流までを調査してみて9710月)

    今年の文化祭に向けた取り組みは、生徒の環境問題への関心の多様な現状を考慮して、それぞれの興味関心に応じたテーマを選

   択してチーム編成し、多摩川の上流から下流までの調査を行った。

    上流の御岳渓谷の調査チームの感想には、『本当に多摩川なのか?』という自然の豊かさに感動したというものが多く見られ

   た。空気のにおいの違い、川の透明度、緑の多さなど、普段見慣れている二子橋付近との違いにビックリした様子である。中流と

   の境の羽村の堰でも同様だが、自然の豊かさに感動し、川に入って夢中で魚を追いかけて手づかみにした体験など本来の多摩川に

   触れた喜びを、多くの生徒が語っていた。

    そしてこの体験をもとに、『なぜ、このようにきれいな水が、二子橋付近の汚れた臭い水になってしまうのか?』という疑問が

   生まれ、この自然観察のあとの調査活動の推進エネルギーとなったようである(下の感想文を参照)。

 ○多摩川上流に行って@(御岳渓谷)

 とても水がきれいで、底がすき通って見えた。水がとても冷たく、魚などもたくさんいた。

 こんなきれいな水が、どこでどのようになってこっちの方まで流れてくるのか不思議に思った。

 上流の方のきれいな水がそのまま下流まで流れてくればいいと思いました。今日は遊んだ時間の方が長かったと思うけど、とても楽しい一日でした。

                      ○多摩川上流に行ってA(御岳渓谷)

 多摩川の上流の方には一度も行ったことがなかったので、楽しみにしていました。そこの川の水はとてもすんでいて、ガラスを通して見たかのように、魚がよく見えました。

 においも全然なく学校の近くと違って泳ぎたくなるほどでした。流れは平らじゃなく、ダンダンがさねみたいになっていて、音をザーザーならしていました。

 自然のままの姿が残っているみたいで、とても感動しました。夏にもう一度みんなで行ってみたいと思いました。

    各チームの混成メンバーで同時に4地点の調査を実施したため、魚釣りのチームも、生き物調査のチームも水質調査のチーム

   も、多くの生徒が上流に行きたがり、今回行けなかった者は、『次回は見にいきたい』と言っていた。

    河口付近の大師橋に行ったチームは、生き物の多さにビックリした様子。調査地点のすぐ側に河口干潟があるので見学した所、

   たくさんの鳥があつまっており、調査地点でも、蟹やハゼなど手づかみでとれてしまい、『中流の二子橋付近が汚いのだから、河

   口はもっと汚いだろうから生き物なんていないだろう』との生徒たちの考えは、みごとに覆されてしまったようである。多摩川の

   上流から下流までを調査したことは、生徒の意識を揺さぶり、さらに深い調査へと導くきっかけとなり、効果的であった。可能で

   あれば、全生徒を上流までつれていき、普段見ている多摩川ではない、本当の多摩川を見せたいものである。

 (4) 今年の文化祭でまとめの発表・討論を実施して9710月)

  @ 取り組みの全体を通して

     10月に行われた文化祭では、様々な資料を駆使した展示発表と、各チーム代表によるシンポジウム形式の発表討論会を行った。

   展示発表は、各チーム毎に別のテーマで行ったためか、一つ一つのテーマへの取り組みはかなり深められた。しかし、各チームで

   調べた事を総合し、学年全員の認識を深めるという点ではまだ不十分であった。

    水チームは水質汚濁の原因が家庭排水と下水道処理の不十分さにあることをつきとめ、行政の様々な対応にも改善すべき事があ

   ることに気がついている。そしてゴミチームは、川のゴミは対策が全くなされておらず、ボランティアに頼っている現状であるこ

   とを知った。

    しかし、その研究成果を全員のものにする機会をもてなかったので、生徒たちに今後取り組んで行きたい事を聞いた時には、

   『水がよごされた原因を知りたい』とか『水をどうやったらきれいにできるかを知りたい』などの解答が数多く出される現状であ

   り、各チームの成果が、全体のものになっていないことは明白である。

    しかし、このことは昨年からの取り組みの結果として、生徒の多くが自ら問いを発し、川を汚した原因を知りたいと思い、ま

   た、その改善方法を知りたいと思い始めていることをも示している(下の感想文を参照)。

 どうしたら、川の水がキレイになるのかを考えてみたい。

 台所の水でよごれているとはしったりしたけど、どうやれば、すこしでもキレイになるかをしっておきたい。

 もっといろんな人に、今の多摩川の状況と、キレイにするためにはどうしたらいいのかをしってもらうようにしたい。

    従って各チームの研究成果をつきあわせる作業をするならば、認識はさらに深まり、主体的に環境を保全る行動に動こうとする

   レベルに全体が到達しうるであろう。

    当日行ったシンポジウムの討論はまさにそのような認識の総合化と深化の過程であった。

  A シンポジウムの討論

    シンポジウムの討論は多摩川上流のような自然が豊かなきれいな川に戻すにはどうしたらよいかというテーマに沿って行われ

   た。従ってパネラーの関心は生活排水で汚れた川をどのようにしてきれいにするかに集中し、等々力環境センターの処理水がまだ

   とても汚いことや自然浄化装置の建設が進められていることが関心をよんだ。

    生徒たちの討論の結論は『人間が川のもつ自然の浄化作用を破壊したのだから、人間が川をできるだけ自然な状態に戻して川の

   自然浄化作用を回復させると共に、それを促すために下水道の処理施設を高度化したり、各家庭で排水をあまりひどいものにしな

   いために洗剤や油の問題も考えていく』というものであった。この点では全パネラーが一致したのだが、会場参加者から出され

   た、『洪水などを防ぐために川をコンクリートの堤防で固めることについてどう考えか?』いう質問については、意見は別れた。

   『町を守り生活を便利にするにはしかたがない』という見解と『それでは川は死んでしまうから、できるだけ自然の状態に戻そ

   う』という見解の対立である。

    この点はもう少し深めるべき点であり、自分たちの生活の便利さと自然環境の保全という問題を、総合的にとらえて考えていく

   必要があろう。

    ともあれ、各チームの報告をつきあわせることで、植物や魚や昆虫や鳥の生態の変化と川の水質の変化が密接につながっている

   ことがわかり、その水質悪化の原因の一つが家庭排水にあることが把握された。そして様々な水の浄化方法が模索されていること

   もわかり、川をきれいに戻すことは可能であり、それは自分たちの生活のしかたにも深く係わっていることもわかったようであ

   る。

 やはり今の多摩川はみんながどうするかで変わっていくと思います。ぼくは家庭排水をどうするかと言う問題をけっこう興味を持ちました。とうろんなどもやり、ぼくは多摩川への関心は高くなりました。

    上に掲げた感想文は、パネラーの一人で多摩川の昆虫について報告した生徒のものである。各チームの研究成果をつきあわせ総

   合化することで、川の汚れの問題を自分自身の問題としてとらえられる事を見事に示している。

    なおゴミの問題はあまり焦点にはならなかったが、ゴミチームの報告を聞いたパネラーの一人が、『今までは河原にゴミ箱をい

   っぱい設置すればいいと思っていたけど、そんな単純な問題じゃないということがわかった。どうすればいいかはわからないが、

   今後考えたい』と発言したことは、全体の雰囲気を代表しているものと思われる。

5 成果と課題

  昨年から多摩川の自然観察に取り組んできた。その成果と課題を以下にまとめてみたい。

 (1) 成果

  @ 自然観察を主体として、自然に対する感受性を高め、川に住む生き物への共感を基礎に、環境問題へ関心を高め、主体的な取り

   組みを促そうと努めてきた。この取り組みは、前項の生徒の意識の変容の所で述べたように、当初の目的を充分に達成したものと

   思われる。水質をよくするために自然浄化装置を考えてみたいとか、家庭でできることは何かとか、川のゴミをへらすためのボラ

   ンティアをやりたいなど、生徒の多くに主体的に取り組んでいこうとする意欲がみられる。

  A 行政への聞き込みも文化祭直前の押し迫った時期で不十分ではあったが、目の前の川の問題が自分たちの生活のあり方の問題だ

   と気づく契機となっていた。

  B シンポジウム形式で各チームの取り組みをつきあわせる作業をしたことは、認識を深め、総合化していく上でおおいに有効な手

   だてであった。

  C 取り組みにあたって、クラスを越えて各自の興味と関心に応じてテーマを選択してチームを つくらせたことは、生徒一人一人

   の主体的な取り組みを促す、よい土壌となったものと思われる。魚チームが多摩川の魚の名前を入れた「エキセントリック多摩川

   フィッシュ」という替え歌をつくり、魚など命あるものへの共感を歌にしたことなどは、その例である。

    また、直接環境の問題ではないが、各チームの活動に主体的に参加した生徒の多くが、学習面など、以前より自信をもって主体

   的に取り組んでいることも大きな成果である。

 (2) 課題

  @ 各チームの研究成果がまだ全体のものにはなっていない。多摩川と環境についてかなり関心が深まっているので、今後、学年全

   員でシンポジウム討論を開催し、認識の総合化をはかっていきたい。

  A 歴史調査はまだまだ不十分である。特に洪水の歴史とそれへの対策としての堤防の強化、そして都市化にともなう水質などの悪

   化の関係。川の自然環境の保全が、自分たち人間の生活のあり方の問題だという時、その人間と川との関係の歴史的経緯を知らず

   して、深くとらえることはできない。昨年の身近な人へのアンケート調査ともからめ、今後追求しなければならない課題である。

  B 川の自然環境破壊の問題は単にそれに止まらず、地球規模の環境問題へ直結する問題である。川は山と海とを結び、水の循環シ

   ステムの大動脈としてあるために、生命の維持の要とも言える。その川の役割を知ることは地球環境全体の問題を総合的にとら

   え、自分たち人間の生活を見直す大切な視点になるものと思われる。生徒達の多摩川の自然環境を保全する取り組みを促すために

   も、2年間の自然観察と調査の体験を踏まえ、地球規模での環境の問題の一環として川の問題をとらえる授業が必要であろう。

  C 現に行われている水質浄化施設がどの程度効果があるものなのか、実態調査してみることも、今後川の自然を回復する取り組み

   をする時に、大いに参考になるものと思う。特に下水道処理 施設から放流されている処理水がどの程度の水質になっているかを

   定期的に調査していくも、環境問題に主体的に取り組み、解決方法を探る時に大切な課題である。生徒達からも下水処理水の水質

   検査をしたいとの声もあり、今後取り組んでみたい。

    同時に、平瀬川合流点の浄化施設など、自然浄化作用を一部取り入れた施設があり、これが、どの程度の効果があるかも調べて

   いきたい。

  D 川の自然浄化作用を利用した浄化施設とはどのようなものか。川をできるだけ自然に戻そうといった時、その具体策が問われて

   いる。生徒の中にもその装置をつくってみたいとの声もあり、身近な所で二ヶ領用水を実験場として浄化装置をつくれないもので

   あろうか。今後検討すべき課題である。

  E 家庭排水の問題だという時、具体的に何がどう問題なのかは生徒の多くはまだ知らない。ここを追求するとともに、自分たちの

   家庭がどの程度この問題に気をつけているのかを実態調査などしてみることも良いと思う。

  F ゴミの問題であるが、クリーン作戦の展開と同時に、川にゴミを捨てないよう人々に呼びかける行動を組織してみるのも大切で

   あろう。すでに生徒会本部の生徒の中にその動きがあり、これを生かして考えてみたい。

 

〔使用した参考資料〕・県環境部水質保全課発行「リバーウォッチング パート2」

          ・建設省関東地方建設局発行

              「あなたにもできる川の環境診断」

          ・建設省発行「多摩川誌」          など

 


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