1学年の取り組みー総合選択実施に向けてー
1999年12月20日
1.はじめに(テーマ設定と全体の構想)
今年度1学年は、3学期の総合選択の授業にむけ、1・2学期の取り組みを通じてどう準備するかを年度当初に決めた。1学期の5月に予定されて
いる校外学習と10月の文化祭を3学期の総合選択につなげた通年の取り組みにすることが構想されたわけである。
テーマは3つ、「環境」「福祉(人権)」「国際」とした。身近な環境問題に取り組みつつ生き方の問題として環境をとらえる事、この世の中には障害を
持った人や高齢の人など様々な人が共に支え合いながら生きていることを知ること、そして日本にも様々な民族の人が共に暮らしていることや世界
の様々な国とのつながりで日本は成り立っていることを知ること。これらは、21世紀を担う子供たちには欠くことのできない認識である。
以上のテーマを考えて行くために、5月の校外学習はその導入編と位置付け、学区探検ウォークラリーとして、地域の環境にふれ、地域の福祉の
現場を知り、地域の国際的な関わりにふれるコースを設定する。さらに秋の文化祭に向けては学活などを活用して、上記の3つのテーマに沿ったコ
ースを設け、このテーマを具体的に追求し発表する場とする。そして3学期の総合学習はさらにそれを深める場と位置付け、この1年間の学習で培っ
た興味関心をもとに、2年次・3年次の総合的学習を展開しようと計画した。
2.学区探検ウォークラリー(5月29日実施)
この取り組み目的は以下のように設定した。
(1) 今後の総合学習をみすえて、生徒各自の興味関心の有る課題を見つける 第一歩とする。
(2) 文化祭・総合選択(3学期)につなげ地域の環境・歴史・産業・文化やこの地域での福祉活動などについて興味・関心をもつきっかけとする。
(3) 生活班単位でのウォークラリー形式にすることで、生徒間の協調性を高め、リーダーを育てる。
そして、以下のようなポイントを設け、2方面各3コース計6コースとし、土曜日の午前中半日を使い、班毎にウォークラリー地図を頼りに地域を歩いた。
地域 | ポイント名 | テーマとの関連 |
溝口 | 宗隆寺(溝口最古の寺・芭蕉句碑あり) 二ヶ領用水大石橋(川に住む生物看板) 亀屋(古い旅館・国木田独歩の碑) 田中屋(古い呉服店・古い建物) 川崎乳児院 西高津保育園 大山街道ふるさと館(街道の道標) |
歴史・文化 環境 歴史・文化 歴史・産業・文化 福祉 福祉 歴史・文化 |
溝口 | 片町の庚申塚 | 歴史・文化 |
久地 | 鷹匠橋(将軍お鷹場あと) 龍厳寺(日本最古の大黒天像) 氷川神社(宇奈根は昔東京都だった) 久地の横土手(江戸時代の堤防) 子育て地蔵 二ヶ領用水円筒分水 久地の横堤(江戸時代の堤防・櫻並木) わかたけ作業所(障害者の共同作業所) 日本理化学工業(福祉工場) グロリアアーツ(星野富弘美術館) |
歴史 歴史 歴史 歴史・産業 歴史・文化 歴史・文化 歴史・環境 福祉 福祉 福祉・文化 |
下作延 | 緑ケ丘霊園(稲荷塚古墳・作延城) 上之橋(平瀬川改修の碑) 七面山(学区一番の高所) |
歴史・環境 歴史・産業 環境 |
二子 |
二子神社(岡本かの子碑・大くすのき) 料亭やよい(黒塀の料亭) 二子の渡し入り口(レリーフ) 大貫病院(大ヒマラヤスギ・古い蔵) 電車とバスの博物館 第六天神社あと(大イチョウ) 二子塚あと(二子の名の由来) 多摩川(底生生物での水質検査) |
歴史・環境・文化 歴史・文化・産業 歴史 歴史・環境 産業・文化 歴史・環境 歴史 環境 |
全コース共通のポイントとして、多摩川と七面山と緑ケ丘霊園をもうけ、全体としての地域の環境に関心を持たせたいと考え、コースを設定した。
初めてのことで全コースを回れたのは全体の3分の1程度であったが、地域のことに対する関心は深まったようである。
多摩川の水質検査では、初めて水の中に入った生徒たちは水の臭さに閉口しながらも、トンボのヤゴやヒル、そして魚の稚魚などを見つけて大騒
ぎ。生き物の多さにびっくりしたようであった。
〔写真@ 多摩川で底生生物による水質検査をしている生徒たち〕
また、第六天神社あとの大イチョウをはじめて見て、その根元の太さを班の仲間みんなで手をつないで測った班は、6人全員でもとどかない大きさ
に感激をしていた。
〔写真A 第六天神社あとの大イチョウの根元を囲む生徒たち〕
コースは学区内を巡っていたが、普段行った事もない道を歩いたり、立ち寄ったこともない神社やお寺に行った事はとても印象に残ったようであっ
た。
3.多摩川自然観察・クリーン作戦(7月17日実施)
年度当初の計画にはなかったが、多摩川クリーン作戦にあわせ、土曜日の半日を使って良いことになったので、文化祭の準備をかねて、多摩川
の自然を堪能する機会を設けた。活動目標と内容は以下のとおり。
〔活動目標〕
(1)多摩川の自然に触れることを通じて、自然環境への興味関心を育てる。
(2)クリーン作戦を通じて環境の保全への意識を育てる。
〔活動内容〕
(1)多摩川の水質検査(底生生物による)
(2)河原のガラス(流れで削られたもの)を集める…文化祭の材料集め
(3)石(硯石・火打石)を集める…文化祭の材料集め
(4)石(おもしろい形や色のもの)を集める…文化祭の材料集め
(5)木(おもしろい形のもの)を集める…文化祭の材料集め
(6)河原のごみひろい
5月のウォークラリーで多摩川に行けなかった班の生徒たちの『多摩川に行って水質検査をしたい』との要望が強いので、再度水質検査を実施し
た。あいにく当日は大雨がふったあとだったので、生物観察は不調だったが、初めて多摩川の水の中に入った生徒たちはおおいに楽しんだようだっ
た。クリーン作戦では水中に大きなゴミがあるのを発見し、ゴミを引き上げたりもした。
〔写真B 多摩川クリーン作戦ー川からおおきなごみをあげたところー〕
4.文化祭の取り組み
10月の文化祭は、「環境」「福祉」「国際」の3つのテーマに沿ったコースを作り、これらのテーマへの生徒の興味関心を強め、3学期の総合選択の
時に学習する課題を見つける場として設定した。
コースは以下のとおり。
コース名 | コースの学習の概要 | 人数 | |
自然系 | 多摩川水質検査 | 多摩川にすむ水生生物を調べ、川の水質を調べる。上流や下流も調べ、水生生物の標本なども展示。 | 41人 |
多摩川の石調査 | 河原にある石の中には、硯にできる石や火打石にできる石などいろいろある。それを探して実際に硯を作ったりする。 | 51人 | |
芸術文化系 | ガラス工芸 | 多摩川の河原にあるガラスをひろって、それを加工してアクセサリーや置物を作る。いろいろな色や素材のガラスが落ちている。 | 45人 |
石工芸 | 河原の石にはおもしろい形をしたものがある。石の形を生かして、鳥や魚やいろいろなものを作る。 | 37人 | |
木工細工 | 河原にはたくさんの流木があり、これもおもしろい形をしている。木の形を生かして何か作品にする。 | 9人 | |
歴史 | 電車鉄道の歴史 | 電車とバスの博物館などを使い、田園都市線やその沿線の歴史などを調べる。 | 8人 |
福祉 | 点字 | 眼の見えない人たちのための点字。その基礎を学んでいく。 | 17人 |
国際 | 韓国語 | 川崎にはたくさんの韓国・朝鮮系の人がいる。韓国語の基礎を学んでいく。 | 6人 |
(1)コース設定のねらいと活動内容
@「自然系」
直接多摩川の自然に触れることで環境問題への関心を呼び起こしたいと考え、「水質検査」は、5・7月の多摩川中流二子橋付近のかなり汚れた
川での体験を踏まえ、多摩川源流にほど近い東京都丹波山の渓流の調査と、河口に近い川崎市六郷橋付近を調査し、場所による違いを体感させ
た。
「石調査」は7月に採集した硯石と火打石とを分類し、石を削って硯をつくったり、実際に発火実験をやってみることで、身近な道具である硯と火と
が身近な材料から作れることを知り、川の成り立ちや環境への関心を育てようとした。
A「芸術文化系」
川にある様々な素材を採集・加工することで、川の環境への関心を深めようと、「ガラス」工芸は河原に捨てられたビンなどの破片が流れによって
磨かれたものを使い、アクセサリーや置物をつくり、「石工芸」は河原の石の色や形をいかしたオブジェを作り、「木工細工」は流木を加工してオブジ
ェを作った。
B「福祉系」
点字という健常者にはなじみのない文字を学ぶことをつうじて、眼の見えない人の苦労を少しでも実感できればと考えた。
C「歴史系」
学区内を走る田園都市線の歴史を博物館などを尋ねて調べることで、身近な地域の歴史に触れさせようと考えた。
D「国際系」
家庭の都合で1年間本校で学んでいる韓国から来た生徒と、朝鮮初級学校から本校に進学した生徒。この二人の生徒を生かし、隣国であり深い
関わりのある韓国について関心を持たせようと考え、韓国語のプロの講師を招いて講座を開設した。
(2)生徒たちの反応と成果
9月の体育祭終了直後から学活を使い、10月の文化祭直前一週間の5時間をあわせ、全部で11時間の学習活動を実施した。
@「自然系」
多摩川の源流に近い丹波山の渓流では山椒魚も見つかり、あまりにきれいな水に感動し、水遊びや魚つりを堪能した。河口に近い六郷橋付近で
は、コンクリート護岸から川に降りられず苦労したがようやく見つけた砂州で水質検査をした。あまりにも臭い川に閉口もしたが、砂州に住むカニの
大群に夢中になった。
〔写真C 多摩川上流の丹波山の渓流で水質検査をする生徒たち〕
〔写真D 多摩川上流の丹波山の渓流で見つけたサンショウウオと沢蟹〕
石調査は、見つけた硯石をひたすら削って平らにし、硯として使えるよう加工したチーム、集めた火打石を使って発火実験に取り組むチームに分
かれた。単調な作業であったが、河原にある石で硯ができたり発火できることを知り、文化祭で実際にはじめてやってみた人が感動するさまを見
て、不思議な感動にとらえられたようである。
〔写真E 文化祭で自分たちで石を削って作った硯ですった墨で字を書く生徒たち〕
A「芸術文化系」
このコースは多摩川での材料探しに始まった。文化祭に向けて、土曜日や日曜日に何度か多摩川に行って材料を採集したが、何時間も多摩川を
散策することを楽しんだと同時に、河原のゴミの多さにも閉口し、拾った材料を作品に仕上げる過程で「環境問題」への関心を深めた生徒もかなり
いた。
ガラス工芸チームはガラス片をアクセサリーや置物に加工。作品のイメージ作りに苦心したが、それぞれ美しい作品に仕上げた。
〔写真F ガラス工芸作品〕
そして作品の中で、「河原のゴミも使いようによっては美しい工芸品になることに感動」し、「川に捨てられてたガラス片が流れに洗われて行く内に
角が取れ美しく磨かれて行くという自然の神秘に感動したものも多かったようである。
〔生徒の感想文〕
Kさん Tさん Hさん |
石工芸チームは、石の形を生かしながらそれにアクリル絵の具を塗って、様々なイメージを作品に仕上げた。
〔写真G 石工芸作品〕
木工細工のコースは、流木を使って動物を作った。川で流木を集めようと計画したが、川で見つかるのは洪水のあとだけ。日程調整がうまくいか
ず、結局教員が海で拾ってきた。何度かあった大増水の時に拾いにいければ、自然の脅威のさ
まを体験でき、作品作りと合わせ、自然に対するさらに深い認識が獲得できたであろう。
〔写真H 木工芸作品〕
どちらのコースとも、「自然のものを使って色や形を工夫すればいろいろなものが作れる」ことに深い感動を覚えたようである。
B「福祉系」
短い時間ではあったが、点字の基礎を学び、基礎的な読み書きができるようにした。はじめてのことで戸惑いもあったが、「町の所々にある点字ブ
ロックを読めたことの喜び」を感じたり、「眼の見えない人が字を読むすごさ」を実感したりして「今までよりも障害者を身近に」感じたようである。
〔生徒の感想文〕
Sさん Uさん |
〔写真I 文化祭で点字体験コーナーにつどう人々〕
C「歴史系」
鉄道の好きな男子生徒が集まったが、電車は好きだがその歴史までは知らなかったようである。高津駅の「電車とバスの博物館」をたずねたり、
インターネットで東急電鉄のサイトをたずねて田園都市線の歴史や車両の種類や歴史を調べたことはとても面白かったようである。
〔写真J 文化祭で鉄道模型を走らせる生徒たち〕
D「国際系」
韓国語を教えているプロの講師を招いて韓国語の初歩を学んだが、講師にとっても日本語の文法をあまり知らない中学生に韓国語の基礎の発音
や文法を教えることは初めての体験であったので、試行錯誤の繰り返しであった。また生徒にとっても厳しい学習であったようだ。だが語学学習と平
行して文化祭のために韓国の学校や町の様子、そして食べ物や料理を教えてもらい発表したことは、韓国や外国に対する関心を深めたようであ
る。韓国人の生徒も自分の国のことを語るときはとても生き生きとしており、普段日本語での授業に四苦八苦している時では考えられない姿が見ら
れた。
あえて語学から入らず、韓国を紹介する講座として設定した方が入りやすかったし、効果的であったのではないだろうか。
〔写真K 文化祭の韓国紹介のコーナー〕
5.3学期の総合選択にむけて
3学期の総合選択は文化蔡の成果に基づき、生徒のアンケートと教員の特技や教科を考慮してコースを以下のように設定した。「環境」「福祉」「国
際」のどの系も内容を充実させ、様々な学習コースを作った。そのなかの「国際系」「韓国の食文化」コースは韓国人の保護者からの提案と文化祭を
うけた生徒の「外国の食文化を知りたい」との意見に基づいて作られた。文化祭の韓国語チームがキムチの作り方を展示した影響であろうか。
系 | コース名 | コースの内容 | 人数 |
環境・地域系 | 多摩川の岩石と水質調査 | 岩石調査班と水質調査班に分かれて調査活動。 @岩石調査:なぜ川ができるか。岩石の見分け方を学 習。その後岩石を採集し削って標本を作る。 A水質調査:なぜ川ができるか。川の水が汚れる原因 などを学習。その後多摩川の水を採取して化学的な 水質検査を実施(定点観測)。 |
28人 |
環境芸術 | 多摩川の河原で集めたガラスを使ってグループ作品を作る。ガラスの形を生かした幾何学模様のランプ シェードを作り、置いたことでまわりの雰囲気を変えられるようにする。授業以外の時間を使って、河原にガラスを拾いに行く。 | 30人 |
環境・地域系 | 地域を詠う | 地域の名所やお寺や町をめぐりながら、そこの新しいものや古いもの、そこに生きる人々の姿などを観察し、自分の言葉で詩や俳句や川柳などに表現する。 | 16人 |
福祉系 | 手話入門 | 手話の基礎を学ぶ。手話コーラスを一曲覚え、自己紹介ができる程度の手話を学習する。講師を4名招く。 | 20人 |
救急法入門 | いざという時(災害にあった時・急病やけがをした時)に役立つ応急処置や、スポーツでのけがの手当てやけがを防止するテーピングの方法を学ぶ。 | 32人 | |
国際系 | 韓国語入門 | 発音の仕方を学びながら、数字やものの名前、あいさつなど、韓国語の基礎を学ぶ。講師を招く。 | 10人 |
韓国の食文化 | 似ているようで違うお隣の国韓国の食文化について学びながら、中学生にもできる韓国の料理を作る。講師に2名の保護者を招く。 | 24人 | |
韓国伝来の陶磁器を作る | 日本の陶磁器に大きな影響を与えた韓国・朝鮮の焼き物の文化や日本との関係について学び、実際に陶磁器を鑑賞する。その後高麗・李朝期の陶磁器の色や形をまね て、陶土と釉薬を使って焼き物を焼く。 | 16人 | |
韓国の音楽 | 韓国の音楽の中から太鼓(チャンゴ)の音楽を学ぶ。踊りながら太鼓をたたく。 | 7人 | |
日本と韓国・朝鮮の歴史探索 | 日本人の生活や歴史で切っても切れない深いつながりのある韓国・朝鮮。図書室のまんが日本歴史を使って、日本と韓国・朝鮮との関係を、古代・中世・近世・近代と調べ、一冊の本にする。 | 7人 | |
英会話入門 | 発音練習やコミュニケーション活動を中心にして、英会話の基礎を学ぶ。 | 25人 |
今回は「国際系」を中心にコースを組んでみた。韓国に来春帰る生徒と今後とも交流を続けることを想定してのことである。合計8時間の短い活動
ではあるが生徒たちの興味関心を深め、来年2年次の取り組みにつなげていきたい。