〔シャガール展〕95.3.31
半蔵門のプチミュゼの春の恒例の展覧会。今回は晩年の油絵作品が中心。
気がついた事が一つある。それは、1969─71年の間に、シャガールの絵に大きな変化が起きているということ。
69年以前の作品では、人物や事物を黒い太い線で区切っており、ドイツのブリュケ派的な表現をしており、絵は多少暗く、力強いものであった。しかし、71年以後の作品では、黒い太い線は消え、非連続線による、輪郭をぼかしてかく技法に変わっている。それとともに、画面をくっきりといくつかの色に分けていた(モザイク的に)それまでの技法も消え、ぼんやりといくつかの色が淡く混じり合った、軟らかい画面へと変化している。この変化によって、これまでの、すごくきつい強い、ある意味ではオドロオドロしい絵から、優しい、穏やかな、軟らかい色調の絵へと変化している。
これは何を意味しているのだろうか。
この時期は、シャガールが80代後半から90代の頃のこと。また、技法の変化と共に、画材も変化している。全体的に「愛」をテーマとしており、「追憶」の世界ともいえる。つまり、厳しい社会の変化の中で、社会のおかしさを告発する傾向から、そこを突き抜けたという意味での変化なのかもしれない。たたかいから、全てを許せる世界への変化ということなのだろうか。
先程の技法上の変化に加えて、それまでの光と影とのくっきりとした区別のあった絵ではなくなり、淡い軟らかい光の中での穏やかな陰影の少ない絵に変わっている。そして、同時に、それまで、黒色を多用していたのが、特に79年以後の作品では、全くといってよいほど使われていない。これも興味深い変化である。