〔日本植物図譜展〕95.3.12


 かのシーボルトが長崎に滞在していた時、日本人の画家に植物画を習わせ、多くの日本の植物を絵に描かせた。のちにドイツに帰ったシーボルトは、その絵をもとにして、「日本植物誌」という本を完成した。この本に収められた植物画の原本が発見され、そのうちから200点を選んで展示したのが、この展覧会である。

 とにかく素晴らしい絵である。170年も前の作品とは思えないほど美しい。紙こそ少し黄ばんでいるが、絵の具の色はまったく褪せてはいず、今描いたばかりかのように瑞々しい。そしてこの絵は、とても精密である。植物の葉の裏に生えている毛の1本1本までもが丁寧に描かれ、葉の筋や花の筋にいたるまで細かく生き生きと描かれているのである。現代のボタニカルアートの名品と較べても遜色はない作品である。ということは、次の二つの事実をこの絵は物語っているということ。

1)170年以前のこの時期に、すでにヨーロッパのボタニカルアートは、技術的にも芸術的にも、完成していたということ。

2)当時の日本画家の技量は、世界的にも高い水準にあったということ。

 200点の作品を一つ一つ見ていくと、実物や写真では分からなかったことまで見えてくるから不思議である。植物図鑑に使用する絵であるから当たり前なのかもしれないが、精密でかつ美しい絵である。170年前に、この絵を描いた、「川原慶賀」という画家の非凡な才能も、すばらしいものである。


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