〔18世紀浮世絵名品展〕1994.9.25

 いろいろ見た中で興味深いものが一つあった。それは、勝川春好の役者絵である。
 
 その特徴は、役者絵であり、しかも大首絵であり、その上バックが、雲母刷りという、灰色の仕上げてあることである。これは、東州斉写楽の役者絵の特徴そのものである。
 
 写楽の役者絵の特色は、従来の役者の全身を描く方法ではなく、顔だけを大写しにしたことにあり、しかも雲母刷りという新技法を使ったことにあると言われてきた。しかし、春好の役者絵があることで、これまでの説は完全な誤りであることが分かる。
 
 春好は写楽と同時代の浮世絵師である。そして、その作品には、写楽が描いたのと同じ役者を描いたものも多いという。その春好の役者絵が、写楽の役者絵と同じ特徴を持っているということは、当時何人かの浮世絵師が、同じような新技法を駆使して、作品を競作していたということである。
 
 では、写楽の役者絵の特徴とはなんであろうか。
 それは役者の表情や仕種が、とても生き生きと描かれているところにあったのではないだろうか。
 写楽の役者絵には動きがある。特に代表作といわれるものは、役者が見えをきった時のものが多いが、顔を歪ませた、その表情が、体全体の表情と共に、生き生きと描かれている。そこに特徴があったと思う。
 
 当日は、写楽と春好の同じ役者を描いた作品が並べて展示されていたわけではないが、春好の作品を見ていて、以上のように感じたわけである。

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