〔高橋由一展〕 1994.9.11
幕末・明治初期という近代日本のはじまりの時代に、孤軍奮闘して油絵をおこし、日本最初の油絵画家となった高橋由一。その画業の歩みを初期からたどってみる企画展。
印象に残った絵をいくつかあげる。
その一つは、風景画。
・「墨堤桜花」(1877)
─19世紀イギリスの風景画を思わせる。淡い色調。光と陰の対比。物の質感。この全てがイギリス風である。(このころ彼の油絵 が確立か?)
・「芝浦夕陽」(1877)
─フランスの画家クールベの絵の趣に似ている。
・「洲崎」(1878)─
これはイギリスの画家ターナーの風景画の風情。
次は静物画。
・「貝図」(1878)
─様々な貝が、立体的で貝そのものの質感で描かれている。
絵具が積み上げられており、このころ彼は油絵の技法を使いこなしていることがわかる。
作品を通して見てみると、1877〜78年の所を境にして、高橋由一の絵がかわっているように思える。
これ以前はどうしても事物の輪郭を線で描いてしまい、日本画の様式に囚われている様が濃厚である。しかしこれ以後の作品は、色彩の明暗や絵具の積み上げによって立体的に処理するようになっている。
これは彼の50才の頃である。すなわち油絵をはじめて約25年にして、ようやくにして油絵の技法を自分のものにしたということである。
いかに自身の生まれ育った文化的伝統から離脱することが困難であるかを示していると同時に、高橋由一の粘り強い努力のあとが窺えるしだいである。
もう一つ印象に残った絵がある。それは「三島県令道路改修記念画帳」である。
すばらしいデッサン力である。下絵の段階で構図から色彩がすでに決定されている。先に国立博物館で見たのもこの一部である。「土木県令」と言われた三島による産業革命期の日本の息吹が生き生きと伝わってくる絵である。下絵を書き上げた段階で、細部にわたって修正指示が朱筆で入れられているが、もしかして写真を使っているのであろうか。
もう一つ印象に残ったのが「鵜飼図」。
先年、近代美術館の展示で一度見たことがあるが、バックの漆黒の闇に映える火が、とても印象的である。