〔シカゴ美術館展〕 1994.8.15


 「近代絵画の100年」と題して、19世紀のロマン派から印象派にいたるヨーロッパ絵画の動向と、20世紀初頭のヨーロッパの革新的芸術運動を、同時代のアメリカの美術運動と共に概観し、戦後の抽象的美術にいたる流れをたどる企画展。

 第1室は、19世紀ヨーロッパ絵画の流れで、ドラクロワ・クールベらの写実主義からモネなどの印象派、そしてゴーギャンなどの後期印象派までの流れを示している。

 ここは、作品の数も多く、様々な流れにいたる変化の過程が、とても分かり易く展示されていた。

 クールベ・コロー・ミレーなどの19世紀中頃の画家たちは、対象を写実的に描くとともに、その色彩や光の陰影の微妙な違いを克明に写しとろうとしている。それが19世紀後半の印象派になると、対象の形が捨象されはじめ、事物の形は、様々な光の集合体と化している。

 さらに後期印象派になると、例えばマネなどでは、事物の形そのものが変形され、絵画の中心は、色彩によって、対象の雰囲気や画家自身の印象を表現することに主眼が置かれるようになっている。そして、ゴーギャンやゴッホになると、事物はかなり変形・類型化され、色彩の強烈でしかも、対象の光の陰影はほとんど考慮されず、平面的ないわゆる面塗りの技法で処理され、そのことによって、絵の与える印象は、より強烈なものとなっている。ここに、20世紀初頭に、形や色彩を自由に画家の内面世界によって変形する抽象絵画の源流が見られると思う。

 同時に、この後期印象派の面塗り技法と形の類型化は、浮世絵の影響を強く受けていることもわかる。

 第3室以降は、20世紀絵画の流れを示している。
 しかし、この激動の90年を示すには、展示されている作品の数が少なく、絵画が時をへる毎に、抽象化の一途を辿っていることが読み取れるぐらいで、ただ、思想的混迷とでもいうべき、雑多な印象の混合状態と化していた。

 シカゴ美術館の所蔵作品は、19世紀絵画に見るべきものが多いように思える。

 約200年間にもわたる美術運動の動向をあとづけるには、全部で67作品という数は少し少なすぎるように思う。特に、この中に、ヨーロッパとアメリカという二つの地方の美術で、しかも同じ傾向を辿っている二つの地方を見せようとするために、作品傾向が重複し、かえって、様々な流れの相互の繋がりや、それが表現しようとしているものが、伝わりにくくなった感がある。

 むしろ印象深かったのは、その後見た、横浜美術館の常設展のほうであった。

 常設展4室のうち3室が、すべてシュルレアリスムの作品の展示にあてられている。特に、ルネ・マグリットやサルバドール・ダリの作品が多く展示されている。

 特に印象が強かったのは、ダリの作品で、画家自身の現実世界にたいする批判的精神が、きわめて強烈に見るものにかえってくる作品ばかりであり、それでいて、幻想的な美しさを醸し出す作品であった。
 思えば、ダリの作品は、戦後のアメリカなどの抽象絵画と違い、変形された具象的なものによって、いくつかの印象を想起させる手法をとっているため、画家が伝えようとしたメッセージが、きわめて強くかつ分かり易く、届いてくるのである。そして、その作品の美しさは、色彩の輝くばかりの美しさに原因があるのであろう。


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