〔花鳥の美─若冲から近代まで〕 1994.6.5
皇居の三の丸尚蔵館で開かれた展覧会。3月から3期に分けられて展示された。
展示の中心は、江戸時代元禄期に京都で活躍した絵師、伊藤若冲の作品、「動植綵絵」三十幅である。
京都の相国寺に寄進されたものだそうだが、明治の廃仏毀釈で危機にさらされた時に、皇室に献上されて、今日まで全品揃って伝えられたという。
極めて、写実的な絵である。一つ一つの花や昆虫や動物。その一つ一つが形が違う。実物を写生して描いている証拠である。3期目に展示されたものは、動物が多いのであるが、その中に必ずといってよいほど、花が描かれている。
その花がとても美しい。芙蓉、牡丹・・・特に面白いのは薔薇である。3種類の薔薇が描かれているが、赤やピンクの薔薇が、ていねいなボカシで描かれていて、とても美しいのである。しかも、画面全体の配置や配色が、とてもモダン。色も鮮やかで装飾的。
もう一つ面白い花があった。それは、「池辺群虫図」に描かれた、瓢箪の花である。透きとおった白い花。楚々としておだやかな、なんの変哲もない花だが、美しく描かれている。
それにしても、ごふんをつかって描いているのだろうが、白色で、透明感を損なわずに描く技法はたいしたものである。
若冲は商人だったそうであるが、その商人の持つモダンな感覚が、このような作品を生んだのであろうか。元禄文化は日本のルネサンスとも呼ばれている。その文化の性格を象徴するかのような作品であったと思う。
しかし、このような優れた作品を、宮内庁の中だけに死蔵しておくとは。もっと大きな美術館を借りて、一般公開したら、江戸期の文化を再評価するのに大いに貢献することだろう。