〔「パン」の版画〕96.5.25
19世紀末のドイツの美術総合雑誌「パン」に添付されたオリジナル版画約90点を展示したもの。
この美術雑誌はかなり高額な豪華なものである。その分、ドイツの比較的裕福な階層の美術観の変化が見られて興味深い。発刊3号〜4号の所で編集部が交代している。3号までのものはとても革新的であり、斬新な構図の抽象画が多い。しかし、4号以後は或る意味で陳腐な古典的な写実主義の絵画が幅をきかせており、19世紀末のドイツの裕福な階層の保守的な心情が表現されている。
しかし、その中にも、新しい時代の息吹は少しずつ表現されてもいる。
いくつか興味深い傾向の作品がある。
〈その1〉ジャポニズムの影響
●ヴァルターライスティスク作「つる」
雲の描き方など日本画そのものである。
●ウィルヘルムフォルク作「サロメ」
バックの文様は家紋である。
●オットーエックマン作「五位サギ」
題材も描き方も日本画そのものである。
〈その2〉ドイツ表現主義の流れ
●オイゲンキルヒナー作「11月」
雨風の中、道を急ぐ人々の後ろ姿が描かれ、しかも彼らの長い影が画面をおおうという、とても奇妙な雰囲気の作品。
裕福な階層をパトロンとし、時代の新しい変化を拒否してつくられた美術雑誌であっても、次第に新しい時代の息吹が侵入してきて、少しずつその人々の意識も変化していくということのみごとな表現であると思う。