〔 モデルニテーパリ・近代の誕生 オルセー美術館展〕96.3.16


  名品ぞろいで19世紀初頭から20世紀初めまでのフランス絵画の変遷を総覧することができる。しかし、やはり作品の数がものたりない。海外にもって来たのだからしかたがないかもしれないが。

@「自然の呼び声」

 19世紀中頃から印象派に至る時期の作品が展示されている。

 ドービニーの「収穫」やルソーの「フォンテンブローの森の道、嵐の効果」。そしてシャントルィユの「雨と太陽」やブーダンの「カマレの港」などの作品はとても興味深い。

 総じて田園風景を描いており、特に雲の微細な変化に注目し、さまざまな光の織りなす影の効果に注目している所など、18世紀イギリスのターナー等に代表される傾向と同じである。

 モネの「オンフルールの雪の道と二輪馬車」の絵は、白と黒とのモノトーンの世界で、まるで東北地方の風景を思わせるもの。

 また初期印象派の作品は、上記の自然主義的な傾向を元にして、そこから出てきたものであることがよくわかる。

B「近代都市」

 19世紀末の都市生活を描いた作品を集めたコーナー。

 カイユボットの「雪を被った屋根」は、レンガの煙突のオレンジ色を浮だたせる、白一色のモノトーンの世界であり、色彩がとても美しい。

 マネの「バルコニー」は、彼及び彼の時代のフランス知識人の東洋趣味を物語っていて興味深い。中央の人々の能面のようは表情や陰影の少ない面塗り的な色彩は、明らかに日本画ー浮世絵の影響を受けている。そして人物の手にある扇子や菊の鉢。しかもその鉢は中国製の青花である。そしてチンが飼われているのも興味深い。

E「セザンヌからナビ派へ」

 19世紀末から20世紀初頭の絵画を展示したもの。

 ゴッホの「アルルの女」やセリュジエの「棚」、そしてベルナールの「海沿いの村の穫り入れ」などの作品は、これまでのものと表現が一変。強烈な原色の世界となり、まるで色紙を型紙で切り取ってきたかのような表現である。

 また、ラコンブの「紫の波」やクロスの「金色の島々」、そしてシニャックの「井戸端の女たち」などの作品は、19世紀末の幻想的な表現の世界を代表している。そしてこのあとの20世紀初頭の作品群は、構成が類型化してしまい、絵にエネルギーがなくなってしまう。

 その中で興味深かった作品は、ヴァロットンの「月の光」。この表現はほとんど日本画の世界といってよく、ラコストの「闇の手」の夜の表現もまた、ほとんど浮世絵の夜の表現そのままと言って良い。

 19世紀から20世紀にいたるフランス絵画の様々な模索が、つまる所は日本画の世界に同一化してしまった所が、とてもおもしろい。


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