〔第31回神奈川県美術展〕95.10.28
月館さんの作品が特選に入賞。絵画・彫刻部門で、大賞が彫刻、準大賞が版画だから、絵画部門では二番目の賞ということになる。
会場の入選作品をぐるっと見回してみた。特選や奨励賞などに入った作品には、他の作品とは違った共通点がある。どの作品も美しいということ。どこか幻想的で、何か心に響いてくるものがある。他の入選作品は、やはり、おどろおどろしいものとか、ほとんど破滅を予感したもの、逆に人間の欲望がギラギラしているものとか、見ていて疲れる。
月館さんの作品は「時のまどろみ」。詩的な美しい作品だ。画面手前右手の木の根元に寝転ぶ若者の心の中の夢の情景。左手の白銀に輝く月の光のシャワーの中の女神と、右手の金色に輝く太陽の光のシャワーの中に浮かぶ、ブランコに乗る少女が美しい。そして、女神の膝にある花籠の花の花びらが飛んで、しまいには蝶となって少女の所に飛んでいく。遠い昔の情景のようでいて、生命の循環を暗示する絵のようでもある。
昨年までの絵とまったく変わっている。絵全体がより幻想的で表現が柔らかい。事物の形も色も、全てが柔らかく、優しい静かな時の流れが漂ってくる。暗いオドロオドロしい絵の多い中で、心をなごませる一時を与えてくれる絵である。
手前の人物はとても写実的に描かれ、背後の夢の情景は、とても幻想的に柔らかくというように、描き分けられている。おもしろいのは、手前に座る一匹の猫。この猫だけ片目をしっかりと開けている。絵を描いた作者の分身であるかのようだ。
見ていて不思議に思った所。女神の描き方である。首が太く、身体全体の肉付きの良い女性像。どこかで見た表現である。油絵で、障壁画のような古びた幻想的な絵を描いた画家、有元利夫氏の作品にでてくる女性像に似ている。