〔版画にみるマティスの世界展〕95.7.1
線が命の画家というイメージがあったが、版画作品を見るとまさにそのとおり。油絵よりも、くっきりとした線の描写が生きてくるようだ。版画のどの技法をとっても、その描き方はまさに「一筆書き」。線の勢いと微妙な太さの違いによって、対象がいきいきと表現されている。
例外といえるのは、リトグラフによる挿絵作品。細かい線による陰影・ボカシの細密描写。きわめて立体的な描き方である。しかしその線の描き方は、やはり一筆書きのもの。
マティスの作品の中で最も印象にのこったのは、最晩年のもの。
「ナディア」と題する一連の作品。
太い描線(まるで毛筆用の筆をつかってさっと描いたかのような線)のアクアチントによる人物画。表情がすばらしくよい。簡潔で大胆な表現─彼が若いころ属したフォービズムそのもの。結局初期の表現方法に戻ったものか。しかし、昔よりも大胆にして簡潔な表現で、どこか北斎漫画の線に似ている。
もうひとつ、「ジャズ」と題する一連の作品。
切り絵にもとづいた版画作品。ナイフによって切り裂かれた鋭利な動きのある線。それによって区画された強烈な色彩の対比を伴う表現。鮮やかな色彩でかつ動きの鋭い、生き生きとした表現となっている。切り絵のもつシャープな動きのある線に着目した所に、「線の魔術師」としてのマティスの真骨頂を見た思いがした。なかなか見応えのある企画展であった。