〔宮沢賢治絵画館〕95.4.16


 宮沢賢治の童話作品に、挿絵として、画家たちがどのような絵をつけたのか。生誕100年を迎える(96年)にあたって、さまざまな画家たちによる挿絵を一堂の下に集めてみたという展覧会。

 「挿絵」ということで予想していたことがそのまま的中してしまった。

 賢治の童話に「メルヘンの世界」しか見ない傾向。現実と離れ、夢の世界へと入っていく美しい面のみ見る傾向。これが、現在の児童文学の世界での主流であると思う。そしてこのような傾向が強いのならば、その童話本につけられた挿絵も、そういった物にならざるをえない。以上のように予想して会場を歩いてみた。まさにそうであった。

 どの絵も美しくかつどこかアニメチックな、軽い感じの作品であった。絵は美しく、かつかわいいのであるが、はたしてそれで良いのかという思いが一層つのった。

 宮沢賢治の童話作品は、異世界への旅の持つ、美しい夢のような雰囲気の裏に、厳しい現実社会への鋭いまなざしが感じられるものである。そしてそのまなざしは、時には童話の表面にも浮かびだし、鋭い社会批判となって、読むものにも突きささってくる。

 いくつかあった作品の中で、賢治の描こうとした現実世界への批判的精神を少しでも表現しようとしていたのは、日本画家近藤弘明氏の作品であったと思う。賢治の作品の背後にある、日蓮宗─法華経の思想と近藤氏の真言密教の思想とに、どこか共通するものがあるからであろうか。

 本の挿絵が、話しの表面だけをなぞったものでよいのかという疑問がわいてきてしまった。


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