白川義員写真展「世界百名山」
写真家白川義員氏が4年間かけて撮影した、世界中の登山家たちから選ばれた「世界百名山」の写真展である。
すべて航空撮影であり、山の頂きと同じ高さか少し上下した位置から撮影したものばかり。通常では人間が見ることのできない世界であ
る。今年初めのNHKの、氏の撮影の場面の取材の番組で、白川氏は『神々の世界』と表現していた。
多くは日の出直後の撮影であり、地上の大部分はまだ太陽の光を受けておらず、数千mの高峰の頂のみが朝日を浴びて輝いている場
面で、薄闇の中に高峰の頂が輝いている姿が写しとられている。
薄闇といってもすでにわずかに光りをうけているため、黒い闇に沈んでいる世界ではなく、青味を帯びた静かな空気の漂う世界である。
その薄い青の世界の中に、朝日を浴びて真っ赤に燃えた山の頂が輝く。
白川氏は『山が闇の中から「ウオーッツ、ウオーッツ」と吼えながらたち上がってくるようだ』と、そのさまを表現している。山は生きている、
山には神が住んでいると思われる瞬間である。
大判カメラで撮影された山々は、朝早い斜めの光線により、その斜面の一つ一つの襞までがくっきりと映し取られている。また雲海の中
に高峰の山の頂のみが朝日を浴びて輝いている世界は、まるで仏教の曼荼羅の世界。
主峰と呼ばれる大きな峰の周りに、数え切れないほどの少し小さな低い峰峯が主峰の側に寄り添うようにして立っている。中心の主峰は
釈迦如来。まわりの峰峯は菩薩達。もしかしたら仏教のイメージした世界は、インド・ネパールのヒマラヤの峰峯を見て、それを高空から見
たようにイメージして作られたものではなかったのか。
会場は満員御礼の状態で、入り口には100人以上の人が常に順番待ちをしており、会場整理の者のマイクの音声がけたたましく響く。そ
して会場がデパートの催し物売り場の中にあるため、セールを宣伝する声や集まる客の声などで、会場は喧騒に包まれている。
しかし中に入るとうってかわった雰囲気となる。山の写真を見る人たちはほとんどみな押し黙り、山の巨大さ、山の神秘さに、呑み込まれ
たかのような状態になる。螺旋状に作られた順路に沿って会場の奥深くに入ると、外の喧騒は嘘のように、人々の息遣いと静かに歩む靴
音だけの世界となる。
白川氏の写真は、その『神々の世界』をその空気と共に喧騒に包まれた巨大都市新宿に移し、この汚れた都市の空気を浄化してしまっ
たようである。
氏の130枚にもおよぶ作品から二つ紹介しておく。
ネパール・ヒマラヤ・サガルマータ(エベレスト)峰 |
パキスタン・ヒマラヤ・スパンティーク峰 |
朝日を浴びて真っ赤に燃えるエベレスト峰と、朝もやの青い光りの中に逆光線を浴びて輝くスパンティーク峰。対称的な世界である。